語源から意味をたどる① ――「マイノリティ」とはなにか?――

本日は最近世間で話題となり、議論が活発になってきている、ある言葉の意味を語源という観点から探ってみたいと思います。議論をするうえで、主題となる言葉の意味を定義することは非常に重要です。そうしなければ、論者のあいだに認識のブレがでてしまい、水掛け論になりかねないためです。言葉の意味を定義する手法にはさまざまなものがありますが、語源をたどることは、有力な手法のうちの1つです。

さて、本日考察の対象とするのは、「マイノリティ」という言葉です。「セクシャルマイノリティ(LGBT)」や「少数民族(エスニックマイノリティ)」など、「マイノリティ」に関する社会問題が、日本においても広く認知されるようになってきました。

しかし、「『マイノリティ』とは何か」という根本的な問いに対して、明快な答えを返すことができる人はどれだけいるでしょうか。「それは『少数者』のことだ」と言う人がいるかもしれません。たしかに「マイノリティ」は「少数者」と翻訳されることが多く、これも間違いとは言えません。マスコミでも「マスコミ」=「少数者」とする見解が当然のように提示されているように思われます。

ただ、このような見解は必ずしも妥当とは言えません。なぜなら、社会問題について語るとき、我々は「LGBT」や「少数民族」に限らず、「女性」や「高齢者」をも「マイノリティ」と定義することがあるからです。「マイノリティ」に関する日本国内の立法という面では、少数民族については1990年代に北海道旧土人保護法が廃止され、アイヌ文化振興法(アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律)の施行により、差別の撤廃が目指されています。また、最近ではLGBTの差別撤廃を目的とするLGBT差別禁止法という法律の制定が提案されています。こちらは実現にはさまざまな壁なあるようですが、自治体レベルで施行が盛んになってきているパートナーシップ条例はその先駆けとして注目されていますね。さらに、「マイノリティ」としての「女性」や「高齢者」の格差是正に関する法律が施行されたのは、もっと昔の話です。高年齢者雇用安定法(高年齢者等の雇用の安定に関する法律)は1960年代、男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)は1970年代、男女共同参画社会基本法は1990年代に制定されているのです。以上のように、戦後日本では憲法の条文や理念に基づき、さまざまな立法により「マイノリティ」の差別撤廃、社会参加の促進が目指されてきました。

日本社会において、「女性」は単純に考えて人口の半分、「高齢者」も多くの割合を占めているはずなのに、彼らが「マイノリティ」とされることがあるのはなぜでしょうか。この問いについて考えるためにはまず、先ほどから主張しているように、「マイノリティ」の語源をたどる必要があると思われます。

日本語の「マイノリティ」は当然ながら外来語で、語源は英語の”minority”です。さらに語源をたどるとフランス語の”minorité”から来ており、この単語の語源はラテン語です。

英語の”minority”は「少数」、「少数派」等の意味を持ちますが、この単語は”minor”という単語と関連しています。英語の”minor”には「(地位・重要性などが)比較的重要でない、大したことのない」という意味があります。日本語で「マイナーな歌手」と言ったときの「マイナー」、つまり「メジャーではないもの」と同じ意味です。

以上のことから、「マイノリティ」という単語には「マイナーなもの」という意味があると分かります。つまり、社会における「マイノリティ」とは単に数量的な「少数者」ということではなく、質的に「重要ではないとされている者」すなわち社会において軽んじられている者を指すことになります。

これで「女性」や「高齢者」が、なぜ「マイノリティ」と呼ばれているかが判明したように思われます。彼らは「男性」や「壮年」といった人々と対比したとき、社会的に不利な立場におかれている。そのような考え方のもと、彼らを「マイノリティ」と扱うこともあるのです。もちろん、「女性」や「高齢者」が「マイノリティ」に該当するかどうかについては議論が必要ですが、このように語源をたどると、言葉の定義は判然とすることがあります。

昨今日本語の専門書において、「マイノリティ」という単語がもてはやされているのは、この言葉が単に「少数者」を意味するのではなく、「メジャー」なものに対して劣勢な位置におかれている人々をも包摂しているからです。この言葉を用いることによって、権利擁護や救済が必要なさまざまな人々を一語で、さらに一体的に表現することができるのです。社会運動には連帯が不可欠です。劣勢な人々が優勢な人々に立ち向かう、あるいは対等な立場で議論するためには、目的を一つにして連帯するしかありません。立場や状況は違えど、同じように社会で劣勢に立たされている人々をどのように連帯させるか?そういった課題を解決するために、「マイノリティ」という言葉がもてはやされるようになったと言えるのではないでしょうか。

「マイノリティ」に関する社会問題を議論する際、最低限この言葉の意味を明確に定義しておくことが必要と考えられます。「マイノリティ」を単に「少数者」と捉えてしまうと、この言葉の持つ重要な意義を見落としてしまうことになるからです。そういう意味で、「マイノリティ」を「少数者」と単純に言い換えてしまうマスコミのような書き方は、いささか乱暴で吟味に欠ける手法だと言えるかもしれません。「マイノリティ」は「マイノリティ」として表現するからこそ、問題提起として広い射程を持っているのですから。

以上のように、語源をたどることで言葉の意味が明らかになってくることがあります。このようなアプローチの仕方はさまさまな分野で有効ですから、今後も同様のやり方で話題になっている言葉の意味に迫っていけたらと思います。

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武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。