武道について②現代武道としての少林寺拳法

本日は、前々回の記事の続編ということで、日本の武道の一つである少林寺拳法について書いてみたいと思います。合気道と同じく、柔道空手ほど一般にイメージが浸透しているわけではない少林寺拳法ですが、どのような武道なのでしょうか。合気道と同じく、その技法や歴史から、少林寺拳法の正体を探ってみたいと思います。武道は実際に体験してみないとなかなかイメージが掴みづらい部分も多いと思いますが、技法や歴史など、比較可能な部分に着目してみると、それぞれの特徴が浮かび上がってくるかもしれません。

本日のテーマである少林寺拳法は、戦後に日本の武道家宗道臣によって創始された武道です。宗道臣は第二次世界大戦中、中国大陸に渡り軍事作戦などで活躍したようです。中国滞 在中、彼は嵩山少林寺(いわゆる少林寺)で少林拳(北少林義和門拳)の修行を受け、日本の敗戦後に帰国しました。宗は帰国後、祖国の荒廃ぶりに落胆したと 言われています。そして、荒廃した国民や国土の復興のために創設されたのが、宗率いる少林寺拳法です。少林寺拳法は「半ばは自己の幸せを 半ばは他人幸せ を」をモットーの一つとしており、ここにも少林寺拳法創設の理念が現れています。

さ て、中国の少林寺で修行を受けた宗道臣が創設した少林寺拳法ですが、「これはあくまでも日本武道・武術であり、中国の少林拳とはまったくの別物である」と いう主張を良く目にします。現在の少林寺拳法でも、これがオフィシャルな見解とされているようです。たしかに、現在の少林拳と少林寺拳法の技を比較する と、両者の相違点はかなり多いように見受けられます。ただ、大戦前の少林拳の技法は戦争や文化大革命でほとんど失われてしまっていることを考えると、もは や正確な比較をすること自体が難しいと言えるかもしれません。少なくとも、少林寺拳法宗教法人 金剛禅総本山少林寺という宗教団体を母体の一つとしており、金剛禅という仏教的な教えを修行の中心としていることから、依然仏教の教えが非常に色濃い武道であると言えます。また、以前少林寺拳法は「卍(まんじ)」を団体のシンボルとしており、道着にも卍のマークが描かれていました。これは非常に見栄えが良かったのですが、ヨーロッパではナチスのハーケンクロイツを彷彿とさせることから少林寺拳法はこの卍マークを廃止し、「双円(そうえん)」という新たなマークが採用されて現在に至っています。

純粋な技術体系に目を向けると、それぞれの技が「○○拳」という拳系に分類されていることが少林寺拳法の特徴です。仁王拳、三合拳、天王拳、白蓮拳、地王拳、鶴立拳、龍王拳、龍華拳、五花拳、金剛拳、羅漢拳という名称をもつ11の拳系があり、例えば突天一 という技は 天王拳、逆小手 という技は 龍華拳というように、すべての技がカテゴライズされています。実際の動作に即した名前を付ける合気道のようなシンプルな技名とは対照的に、少林寺拳法の技名は「龍」や「蓮」など仏教的、中国的で華美なものが多い印象です。技の分類体系も比較的複雑なので、少林寺拳法は技名や体系を覚えるのが少し大変だな、という印象を持ちます。

少林寺拳法の技法の特徴は、「剛柔一体」という言葉で表現されることが多いです。「剛」とは蹴りや突きといった打撃技のこと。つまり空手のような技法です。 一方、「柔」とは読んで字のごとく、柔道や合気道のような柔術的な技法のことです。少林寺拳法の特徴は、これら剛法と柔法をバランスよく技の体系に含んで いることだと言えるでしょう。実際、少林寺拳法における演武での、剛法と柔法の繋ぎ方、一体感は見事なものです。和道流空手道のような一部の空手流派にも このような技の使い方は見られますが、合気道や一般的な空手では体験できないバランスのよい技法を教えてくれるのが少林寺拳法です。

少林寺拳法は、合気道とは違い競技があります。しかしこの競技は柔道や空手のようなポイント制で勝敗を競う試合でありません。少林寺拳法の試合は、「演武」を行いその評価を審査員が行うというものです。「演武」とはあらかじめ決まった技を演じることで、演武そのものは空手や合気道でも行われています。以前は少林寺拳法にもいわゆる乱取り(自由に技をかけあう競技・練習方法)が行われていたようですが、死傷者が出るなど非常に危険なため現在ではあまり行われていないようです。

上記を総合すると、少林寺拳法の技法は中国武術の影響を受けた剛法と日本の武術の影響を受けた柔法をバランスよく統合した技術体系であると言えるかもしれません。実際、宗道臣は幼少期に日本の柔術の修行を行っていたようです。そのため、柔術系の武道(合気道など)の技と少林寺拳法の技にはかなり類似点が認められます。例えば、相手の手首関節を決めて投げる技は合気道にも少林寺拳法にも存在し、合気道では「小手返し」、少林寺拳法では「逆小手」と呼ばれています。このように、少林寺拳法は日本の他武道との類似点もかなり多く、それゆえに日本武道協議会に所属し、日本九大武道の一つに数えられています。ちなみに日本九大武道とは「柔道、剣道、弓道、相撲、合気道、空手道、少林寺拳法、なぎなた、 銃剣道」を指すのですが、これについては別の機会に触れられればと思います。

団体としての少林寺拳法にも少し触れておきましょう。上述の通り、少林寺拳法は金剛禅総本山少林寺という宗教法人と関係が深く、武道の中でも最も仏教色の強いものです(一方、他武道、特に合気道は神道や神道系新興宗教との関係が深いとされています)。合気道については、会派がいくつかあるということを書きました。一方少林寺拳法は、原則として会派と呼ばれるものはありません。ただし、白蓮会館の空手など、少林寺拳法の技法を残す他武道の会派は存在しています。空手や合気道などの他武道が多くの会派に分裂していることを考えると、基本的に団体が一つしかない少林寺拳法は特殊だと言えるかもしれません。

本日は日本の武道の中でも異彩を放つ少林寺拳法を取り上げてみました。中国武術の影響を強く受けながらも日本の武術の技法も残している少林寺拳法の面白さ、お分かりいただけたでしょうか。武道はどれも興味深い歴史や特徴があり、それぞれを比較してみると発見が多いので面白いと思います。これまで合気道、少林寺拳法と武道について書いてきたので、今後も引き続き日本の武道を取り上げていけたらと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。