知られざるユーラシア②ウクライナ・ベラルーシ(その1)

「知られざるユーラシア」シリーズとして、前回はロシア連邦を取り上げました。今回はその続編として、ウクライナとベラルーシという、ロシア連邦に隣接する二つの国家について解説していきたいと思います。2つの国々を別々に取り上げても良いのですが、ウクライナとベラルーシは共通点・相違点を比較すると面白いので、一応1つの記事のなかで扱ってみたいと思います。

さて、「ウクライナとベラルーシ」と言っても、どこにある国なのかすぐには分からない方もいるかもしれません。そんな方は、ぜひGoogleマップを開き、ロシアの左側を眺めてみてください。世界地図で見ると、ウクライナは大きいので分かりやすいですが、ベラルーシは比較的小さいため目立ちませんね。ウクライナとベラルーシは、ロシア連邦の西方に位置し、ロシアとEU圏(ポーランドやルーマニア)との間にある国々です。ウクライナはロシアから見て南西、ベラルーシは北西に位置しています。面積はウクライナが603,549 、ベラルーシが207,600㎢、といってもピンと来ませんが、ウクライナは日本の約1.6倍、ベラルーシが日本の約0.5倍と言えば分かりやすいでしょうか。どちらも小国の多いヨーロッパの中では比較的大きな国々だと言えます。特にウクライナはヨーロッパの中でロシアに次いで2位の広さを持ち、麦の栽培など農業が盛んなことから「ヨーロッパの穀物庫」という名でも呼ばれています。ベラルーシも農業が盛んな国で、東ヨーロッパの国々のなかでも特にじゃがいもの生産、消費が盛んな国として知られています。つまり、ウクライナ、ベラルーシともに農業で知られているのどかな国々だと言って良いでしょう。

ソ連には15の共和国が存在し、1991年のソ連崩壊時にそれぞれの国々が独立国家として主権を獲得したことは「知られざるユーラシア①」でも触れておきました。その15の共和国のうち、ロシア、ウクライナ、ベラルーシは特に中心的な地位を占める地域で、ソ連のイニシアティブを握っていました。ソ連崩壊の際、それぞれの国々が完全にばらばらな国家として独立するのではなく、ヨーロッパ連合やイギリス連邦(コモンウェルス)に準ずるような、ゆるやかな連合体として一体感を保つことが目指されました。このような経緯で創設された旧ソ連諸国の連合体(国際機関)が「独立国家共同体Содружество Независимых Государств/ Commonwealth of Independent States」です。独立国家共同体は英語の略称を取って「CIS」と呼ばれることも多いです。CIS創設の主な目的は、各共和国の政治、経済、文化的な協力でした。CISの設立は、ロシア、ウクライナ、ベラルーシの三ヶ国による「ベロヴェーシ合意」で宣言されました。この合意では、CISの設立だけではなく、ソ連という国家の消滅も確認されました。このCISですが、各国の協力という当初の目的にも関わらず、必ずしも有効な協力体制を築くことはできませんでした。15共和国のうち、先に独立を宣言しソ連と対立したバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)はそもそもCISに参加していません。CIS創設後、アゼルバイジャン、アルメニア、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、モルドヴァ、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタン、グルジア(現ジョージア)、トルクメニスタンの12ヶ国が参加しましたが、ウクライナとグルジアはロシアとの関係悪化から、CISを実質的に脱退しています。つまり、現在のCIS参加国は10ヶ国にまで減少し、トルクメニスタンは準加盟国扱いなので、実質的なCIS加盟国は9ヶ国となっています。後述するウクライナとロシアの紛争などもあり、CISの実態は当初の理念に反して泥沼の様相を呈しています。その主因の1つが、ロシアの存在感の大きさでしょう。形式的には各国が対等なCISですが、実質的には唯一の大国であるロシア連邦がその支配力、影響力を保持、強化するための機構として利用されている部分があるのです。

CISの話はこのくらいにしておいて、まずはウクライナという国家についてお話ししましょう。ロシアのすぐ隣に位置し、長く親密な関係を保ってきたウクライナですが、ソ連崩壊後は政情が安定せず、政権交代を繰り返しています。ウクライナはロシアと親密な関係を持つ一方で、愛国心が非常に強く、大国であるロシアを脅威と捉える人々も多くいます。そして、ウクライナでは2004年の「オレンジ革命」によって反ロシア・親欧米政権が成立し、民主的な政権の幕開けが期待されました。しかし、この政権運営も失敗し、2010年には親ロシア的な大統領であるヤヌコーヴィチの政権が成立、オレンジ革命は完全に白紙となりました。その後、反ロシア・親欧米派の陣営は再び勢力を取り戻し、2013年~2014年の政治事変でヤヌコーヴィチは追放、再度親米的なポロシェンコ政権が成立しました。「ユーロマイダン」と呼ばれるこの事変は、ヤヌコーヴィチ政権がEUとの関係強化に関する合意を見送ったことに対する国民の反発から勃発し、首都キエフの広場が火の海になるなど、歴史的な事件でした。その後、現在に至るまでポロシェンコ政権が存続し、ウクライナとロシアの関係性は悪化の一途を辿っています。

ウクライナはウクライナ語を公用語としています。ウクライナ語はロシア語と非常に近い関係にある言語で、イメージとしては日本語の標準語と関西弁のような関係にあります。上述のように広大な領土を持つウクライナでは、すべての国民がウクライナ語を話しているわけではありません。大まかに言えば、ウクライナ語はウクライナ西部の言語で、ウクライナ南東部では主にロシア語が話されています。日本人からすると想像するのは難しいかもしれませんが、ベルギーやスイスのように地域によって主要言語が異なる国はヨーロッパでは普通です。ウクライナの南東部、つまりロシア語地域は、伝統的にロシアへの帰属意識が強いこともあり、上記のような反ロシア・親欧米政権に対しては強い反発があります。このような状況により生まれたのが、ロシア系住民が多数派を占めるウクライナ領クリミア半島の帰属です。クリミアはウクライナの南部、黒海に面する半島でリゾート地としても有名な地域です。国際法上ウクライナに属するクリミアですが、ウクライナで反ロシア政権が樹立した後、ロシアはクリミアを占領し、ロシアへの編入を求める住民投票を実施しました。この住民投票では、クリミアのロシア編入についての賛成票が95%以上を占め、この結果に基づきクリミアはロシア連邦に編入されました。この事件は「クリミア併合」という名称で知られています。住民投票が行われたとはいえ、国際法上クリミアはあくまでウクライナ領とされており、ウクライナや国連、日本や欧米などの国々はクリミアはウクライナ領であり、ロシアによる併合は不当なものだとしています。

先ほど、ウクライナ南東部で主にロシア語が話されている、と書きました。ロシアに併合されたクリミアはウクライナ南部に位置していますが、ウクライナ東部の状況はどうなっているのでしょうか。ウクライナ東部においても、反ロシア・親欧米政権(ポロシェンコ政権)の樹立後、クリミアと類似した動きが見られました。特にロシアとの国境にあるウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州では、ポロシェンコ政権に反対する親ロシア派の活動が活発となり、政府との対立が激しくなりました。ドネツク州とルガンスク州の親ロシア派は、州内にそれぞれ「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」という「国家」を創設し、ウクライナからの独立を宣言し、独立派とウクライナ軍のあいだで民間人を巻き込む内戦が勃発しました。現在では、この内戦は休戦状態にありますが、未だに現地では不安定な情勢が続いています。なお、ドネツクやルガンスクについては、クリミアのようにロシアに併合されることはありませんでした。

ウクライナについては、なんだか暗い記述が多くなってしまいました。実際に起こっている事件なので仕方がないのですが、少しはポジティブな話題にも触れておきましょう。上記の通り、「ヨーロッパの穀物庫」と呼ばれるウクライナは、その名が示すように農業が盛んで、食事も美味しいものが多いです。ウクライナ料理として特に有名なのが「ボルシチ」です。多くの人々がボルシチはロシア料理だと思っていますが、この料理の起源はウクライナにあると言われています。また、カツレツの中にバターを仕込んだ料理「キエフ風カツレツ」や餃子のような料理「ヴァレニキ」など、ウクライナ料理のメニューは非常に豊富で飽きません。

観光地としても、ウクライナは非常に魅力的な国の一つです。特にウクライナ西部のリヴィウやチェルニウツィーには、ハプスブルク帝国の遺稿が多く残っており、美しい街並みやおとぎ話に出てくるような城などを目にすることができます。また、ウクライナは物価が非常に安く、ヨーロッパ旅行とは思えないほどリーズナブルに観光を楽しむことができます。上記の通り、ウクライナ東部は政情が安定していないのですが、中西部はすでに観光地としての復興も進んできており、旅行先としても問題ない状態になりつつあります。

ウクライナは奥深い国なので、まだまだ書き足りないことはあるのですが、文字数が嵩んでしまうのでこのくらいにしておきましょう。明日はウクライナよりさらにマイナーな国、ベラルーシについて書いていきたいと思います。名前を知っているだけでも珍しいと思われるベラルーシ、一体どのような国なのでしょうか。ご期待ください。

ABOUTこの記事をかいた人

武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。