知られざるユーラシア②ウクライナ・ベラルーシ(その2)

本日は、昨日の記事に引き続き「知られざるユーラシア②ウクライナ・ベラルーシ(その2)」として、主にベラルーシについて書いていきたいと思います。「ウクライナはなんとなくわかるけど、ベラルーシって……?」という方も多いのではないでしょうか。ウクライナと非常に似た部分もありながら、まったく異なった部分を持つベラルーシがどのような国なのか、ご紹介していきます。

ベラルーシ(ベラルーシ共和国)は、地理的にはロシア連邦、ポーランド共和国、リトアニア共和国、ウクライナ等に囲まれた内陸国です。昨日の記事で確認した通り、ベラルーシの位置はロシアの西、ウクライナの北ですね。歴史的にはロシアとポーランド双方から多大な影響を受けてきた国であると言えます。歴史上、現在のベラルーシにあたる地域は中世以来「ポーランド・リトアニア共和国」の領土であり、近世のポーランド分割によりロシア帝国に編入されました。それ以来、ベラルーシはロシアの影響下に置かれ、ソ連時代はその15共和国のうちの1つとして知られ、ソ連崩壊に伴いウクライナとともに独立しました。ソ連時代、ベラルーシは日本語で「白露西亜」と呼ばれていました。たしかに「ベラ」は「白」を表すのですが、「ルーシ」は現在の「ロシア」という意味ではなく、ロシア・ウクライナ・ベラルーシ一体の地域を指す名称なので、注意が必要です。国名の由来については、非常に興味深い部分もあるのですが、踏み入ると話が長くなってしまいますので、このくらいにしておきましょう。

現在のベラルーシについてもっとも良く知られているのは、この国が「独裁国家」であるということです。ベラルーシの大統領であるアレクサンドル・ルカシェンコは、1994年にベラルーシ初の大統領に就任して以来、現在に至るまで実に24年ものあいだ、権力の座についています。憲法で再任回数に制限がある一般的な民主主義国家では考えられない事態ですが、ルカシェンコは憲法を改正し、大統領に5回就任しています。形式的には議会制民主主義の形をとっているので、大統領制ではしっかりと投票が行われるのですが、この投票については公正に行われていないという批判もあります。ただし、国民のあいだでルカシェンコ大統領を支持する声が多く聞こえてくるのも事実です。

「独裁」というとどうしても「悪」というイメージと結びつきますが、世界にはシンガポールの開発独裁のような政治体制も存在し、そう単純に善悪を決めつけることはできません。ベラルーシの場合、ルカシェンコは近隣諸国との関係を操る手腕が評価されています。だからと言って独裁が肯定されるわけではないのですが、ベラルーシの地政学的な特質がこのような政治体制を生み出したことは事実でしょう。昨日の記事で取り上げたウクライナでは、ロシアとの関係悪化・急激な親欧米政策が結果としては戦禍を生み出しました。一方、ベラルーシは親ロシア的政治を行っていると言われることが多いのですが、実際はそこまで単純ではありません。ルカシェンコは、ベラルーシの権益を保つため、基本的には隣国ロシア連邦と強調する政策を取っています。しかしながら、これはベラルーシが完全な親ロシア・反欧米国家であることを意味しているのではありません。ルカシェンコは時にはEUと強調する姿勢をも見せながら、ベラルーシに有利な国際関係を築くことを優先しているようです。また、近年ではベラルーシは中華人民共和国との関係性を急激に深めています。中国との関係強化には政治的、軍事的な大きなリスクもあり、賛否両論ありますが、ベラルーシに多大な経済効果を生み出していることは事実です。このように、ベラルーシの大統領ルカシェンコは、周辺諸国との関係性を巧みに利用し、自国に有利な条件で国際関係を構築しています。この点で、自国の政治や文化の保全に重きを置き、ロシアとの対立を生み出したウクライナの政策とは対照的なものだと言えるでしょう。

さて、上記の通りロシアとは基本的に友好関係にあるベラルーシですが、1999年には「ベラルーシ・ロシア国家連合」という連邦国家の設立に調印し、ベラルーシとロシアは統合されるかのような動きを見せました。しかし、当時のロシア連邦大統領であったボリス・エリツィンが退陣し、プーチン大統領が就任すると、両国の関係性は以前ほど良好ではなくなり、この連邦国家計画は頓挫しました。このような経緯があってもなお、形式的にロシアとベラルーシの良好な関係は継続していると言って良いでしょう。ベラルーシは現在、ロシア連邦主導の国際機構である「ユーラシア関税同盟」や「ユーラシア経済連合」に加盟し、経済的にロシアとの協調を保っています。一方、ベラルーシはEU(ヨーロッパ連合)の潜在的加盟候補国に含まれることもあり、EU主導の連合協定である「東方パートナーシップ」に参加するなど、西ヨーロッパとの関係も強化しつつあります。この原因としては、クリミア併合などで国際的な批判、圧力を受け疲弊するロシアがパートナーとして頼りなくなってきたということが挙げられるかもしれません。さらにベラルーシと中国との関係も見逃すことはできません。ベラルーシの対中貿易額は年々増加しており、経済的に中国に依存しつつあることが目に見えます。中国が主導する協力機構である「上海協力機構」にも、ベラルーシはオブザーバーとしてではありますが、参加しています。

ここまでは主にベラルーシの政治について語ってきました。それ以外の要素にも触れておかなければなりません。まず言語ですが、ベラルーシの公用語(正確には「国家語)は、ベラルーシ語とロシア語です。ウクライナ語については、昨日の記事でロシア語と非常に近い言語であると述べました。ベラルーシ語もウクライナ語と同様、ロシア語に近似する言語です。しかし、ベラルーシ語にはウクライナ語と状況が異なる部分もあります。それは、ベラルーシにはベラルーシ語を話す人々がとても少ないということです。ベラルーシ全土でロシア語が主要言語として使われており、街中でロシア語を耳にすることはかなり少ないのです。これは、西部ではウクライナ語、東部ではロシア語というように、地域で言語が使い分けられているウクライナとは大きく異なっています。ベラルーシ語を話しているのは、一部の教養ある知識階級の人々や、都市の影響の少ない農村の人々だけです。ただし、ベラルーシ語も形式的には公用語の地位を持っているため、公共交通機関の表示や公共広告においては、ベラルーシ語はロシア語より優先して使われているとも言えます。ベラルーシ国内でロシア語がベラルーシ語より優勢な言語となった背景には、ソ連時代の政治や教育の影響があります。ソ連時代には、ソ連の中心であるロシアの言語、ロシア語を話すことがある種のステータスだと見られており、多くの人々がベラルーシ語を話すことをやめ、ロシア語話者に移行したようです。これはベラルーシ語とロシア語が似ているからこそ可能なことですね。このように、ベラルーシはその言語事情から見てもロシアと近い関係にある国だと言えるでしょう。

ベラルーシの食文化はどうでしょうか。ベラルーシには、ウクライナのボルシチやキエフ風カツレツほど良く知られた料理はないのですが、「ドラニキ」と呼ばれるじゃがいものパンケーキが有名です。これはすりおろしたじゃがいもを丸く成型して焼いた料理なので、上述の通りベラルーシはじゃがいも大国なので、この料理が代表的な料理としても知られているのですね。ベラルーシは外食文化にも特徴があり、この国にはマクドナルドやケンタッキー・フライドチキンといったアメリカ系のファストフードチェーンの店舗が近年までありませんでした。これらの店舗が進出してきたのは最近になってからなのですが、やはり政治・経済体制からして欧米の外国資本のビジネスモデルが成立し辛い土壌なのかもしれません。とはいえ、外資系の企業がまったくないわけではありません。ベラルーシは現在IT産業の育成にも力を入れており、外資の活躍も期待されています。LINEのようなメッセンジャーツールであるViber(バイバー)はベラルーシに開発拠点を持ち、近年日本企業の楽天がViberを買収したため、日本資本となりました。今後も日本企業を含め、外国資本の進出は進んでくるのかもしれません。

今回の記事「「知られざるユーラシア②ウクライナ・ベラルーシ」では、旧ソ連15ヶ国のなかでも特に重要かつ興味深い国々、ウクライナとベラルーシを特集してみました。それぞれロシアの西に位置し、ロシア語に近い言語(ウクライナ語・ベラルーシ語)を公用語とするなど、共通点も多く見受けられますね。一方、ウクライナが反ロシア・親欧米路線を強化し、ベラルーシがロシア・ヨーロッパ連合・中国とそれぞれ協調する姿勢を見せていることなど、両者のあいだには顕著な違いも見受けられます。そして、このような違いが両国の国民の生活や命運を激しく左右しているのです。このように、一見似ている国々を詳細に比較してみると、それぞれの違いがはっきりと際立ってきて面白いと思います。旧ソ連の国々は、「カフカース(ジョージア・アルメニア・アゼルバイジャン)や「バルト三国(エストニア・ラトビア・リトアニア)」のように、一くくりにカテゴライズされることが多いのですが、これらの国々もウクライナやベラルーシと同じく、決して一枚岩ではないのです。今後はこれら十把一絡げにされがちな国々を比較・対照しながら、その違いを通して各国の特徴を探っていけたらと思います。というわけで、「知られざるユーラシア」シリーズはこれからも続けていきます。

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武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。