知られざるユーラシア⑤中央アジアⅠ(カザフスタン・ウズベキスタン)

本日は「知られざるユーラシア⑤」として、旧ソ連諸国のうち、中央アジアにある2つの国を取りあげたいと思います。これまでソ連から独立した国々のうち、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)、コーカサス三国(ジョージア、アルメニア、アゼルバイジャン)の計9ヶ国を紹介してきました。旧ソ連の国々は全部で15ヶ国なので、残っているのは6ヶ国ということになります。その6ヶ国のうち、5ヶ国が中央アジアに存在する国々です。

中央アジアといっても、具体的にどの地域を指すのか明確にはわからないかもしれません。東アジア(日本や韓国、中国など)や東南アジア(ASEAN諸国など)という言い方は良く耳にしますが、中央アジアと言った場合、該当する国々を具体的に挙げることのできる人は、よほど地理好きでない限りいないと思われます。しかし中央アジアは、ヨーロッパと東アジアをつなぐ地域として、経済的にも文化的にも非常に重要であり、日本人にとっても無関係ではありません。

中央アジアとは、ユーラシア大陸の中央部、ロシア、中国、トルコなどに囲まれた広大な地域を指します。日本からヨーロッパを結ぶ経路のいわゆる「シルクロード」は、中央アジアを含んでいます。歴史的に中央アジアの大部分は帝政時代からロシア帝国の版図に含まれており、ソ連にもその領土は引き継がれました。ソ連時代、中央アジアには5共和国が存在し、ソ連崩壊後にそれぞれの共和国が独立しました。5共和国とは、カザフスタン共和国、ウズベキスタン共和国、キルギス共和国、トルクメニスタン、タジキスタン共和国のことです。良く混同されますが、アフガニスタンとパキスタンは「スタン」と付くものの旧ソ連には含まれていません。中央アジアの旧ソ連諸共和国は、度合いは異なるものの、独立後もロシアの強い影響を受ける国々です。5つの共和国を一回で取り上げるのは難しいので、本日はカザフスタンとウズベキスタンについて解説していきます。

カザフスタンは、ロシアの南にあり、中央アジアでもっとも大きな国です。カザフスタンの領土は非常に広大であり、アルゼンチンに次いで世界第9位の面積を誇っています。カスピ海やアラル海(塩湖)には面しているものの、海には接しておらず、世界最大の内陸国とされています。また、国土の大部分は砂漠が占めています。カザフスタンの公用語はカザフ語で、カザフ語は国家語として重要な地位を与えられています。しかし他の旧ソ連諸国と同じくロシア語話者も多く、ロシア語も公用語とされています。カザフ語はトルコ語に近いテュルク系の言語で、中央アジア諸国のうち、タジキスタン以外の国ではテュルク系の言語が公用語となっています。カザフスタンの人口は1800万人で、広大な領土のわりには少なく、人口密度も薄いと言えるでしょう。カザフスタンの首都はアスタナです。アスタナは近年再開発された新しい都市で、1997年に首都に指定されました。それまでカザフスタンの首都はアルマトイであり、現在もアルマトイは同国最大の都市となっています。宗教的には、カザフスタンの人口の7割がイスラム教徒で、残りがキリスト教徒とそれ以外の宗教の信者となっています。

カザフスタンは、中央アジアのなかでも特にロシア連邦との結びつきが強い国と言えます。カザフスタンは実質的にロシアが主導する、ユーラシア経済連合やユーラシア関税同盟に加入しており、経済的にもロシアとの結びつきは強固です。旧ソ連諸国のなかでも、カザフスタンはベラルーシと並んでロシアとの関係を重視した外交を行っている国だと言えるでしょう。カザフスタンの領土内には、ロシア連邦宇宙局の管理するバイコヌール宇宙基地が存在します。バイコヌール宇宙基地からは、油井亀美也さんを始めとする日本人宇宙飛行士も宇宙へ旅立ったことで知られています。バイコヌールは現在ロシアの租借地とされていて、領土的にもロシアと緊密な関係にあることが分かります。

カザフスタンは中央アジアではもっとも豊かな国として知られています。経済状況については後ほど触れたいと思いますが、カザフスタンの経済はバルト三国やロシアに次ぐ地位を持っています。その理由としては、カザフスタンの保有する豊かな天然資源が挙げられます。カザフスタンは石油や天然ガスなどの資源を広大な領土のなかに有しているため、独立後順調に経済成長を遂げ、現在では中進国の一つとされています。

カザフスタンのちょうど南に位置するのが、ウズベキスタンです。ウズベキスタンの領土はカザフスタンと比較すると小さく、中央アジアではカザフスタン、トルクメニスタンに次ぐ3位の面積となっています。それでも日本と比較すると大きく、十分に広大な領土を有している国ではあります。ウズベキスタンの公用語はウズベク語です。ウズベク語もカザフ語と同じくテュルク系で、近い関係にある言語と言えます。ウズベキスタンでもロシア語はかなり広く使われていますが、ロシア語には公的な地位は与えられていません。ウズベキスタンのこのような状況は、ロシア語に公用語としての地位を与えているカザフスタンとは対照的だと言えるでしょう。とはいえ、ロシア語はウズベキスタンでも広く用いられており、公的な文書までもがロシア語で書かれることも多いようです。ウズベキスタンの人口は3300万人で、領土が広いカザフスタンよりも多くなっています。ウズベキスタンの首都はタシュケントで、タシュケントは中央アジア最大の都市とされています。また、青いモスクが有名な世界遺産の街サマルカンドもウズベキスタンの都市として有名です。ウズベキスタンもカザフスタンと同じく、イスラム教徒が多数派を占める国です。

ウズベキスタンは独立国家共同体(CIS)に加盟しており、ロシアとは協調する姿勢を見せていますが、一方でアメリカや日本など西側の国々とも協力するようになっており、カザフスタンほどロシア寄りの国ではないと言えるでしょう。ウズベキスタンでは実際には広く使用されているロシア語が公的地位を与えられていないなど、ロシアから一定の距離を置く政策を実施している国と考えることもできます。

上述の通り、カザフスタンは豊富な天然資源を保有し、経済的にはバルト三国とロシアに次いで中進国と見なされています。実際の数字で見ていくとカザフスタンの一人当たり名目GDP(2017年)は約8700ドルで、EU加盟国のブルガリアよりも高い数値となっています。旧ソ連でもっとも豊かなエストニアとは倍以上の差を付けられてはいるものの、中央アジアという立地等環境的要因を考慮すると、カザフスタン経済はかなり健闘していると言えるかもしれません。一方、ウズベキスタン経済についてはカザフスタンと比較するとかなり遅れを取っていると言わざるを得ません。ウズベキスタンの一人当たり名目GDP(2017年)は約1500ドルと低く、カザフスタンには6倍近く差を付けられています。これはコーカサスの国々と比較しても低く、かなり厳しい状態かもしれません。他地域の国々と比較すると、バングラデシュやカンボジアと同じ程度の水準となっています。国家の経済力は必ずしもGDPで測れるものではないと思いますが、上のように比較してみると、カザフスタンはルーマニアやブルガリアといったEU下位の国々と、ウズベキスタンはバングラデシュやカンボジアといった東南アジア下位の国々と同等の水準の経済力であるといえるでしょう。天然資源という非常に有利な条件を持つカザフスタン経済が豊かなのはある意味当然ですが、ロシアを始めるとする諸外国との関係の持ち方も経済力と関係しているはずです。その意味で、カザフスタンとウズベキスタンの外交方針の違いは興味深いものです。

本日は中央アジアにある旧ソ連の国家のうち、カザフスタンとウズベキスタンを取りあげました。カザフスタンとウズベキスタンは、中央アジア諸国のなかでも比較的日本での知名度が高い国だと思います。残るはキルギス、トルクメニスタン、タジキスタンの3ヶ国ですね。これら3ヶ国は、カザフスタンやウズベキスタンほど日本での知名度が高くないので、基本的な情報からご紹介していければと思っています。

これで旧ソ連15ヶ国のうち11ヶ国を紹介してきたことになりますが、それぞれの国に特徴があり、経済的にも文化的にも大きな差があることがお分かりいただけたかと思います。もともとはソヴィエト連邦という巨大な連邦国家の一部だった15共和国ですが、独立後に置かれたさまざまな条件の差によって、ここまで国家の状況にも差が出てきているというのは驚くべきことではないでしょうか。いや、各国の情勢に差があるのは、必ずしも独立後に置かれた条件の差によるものとは言えないのかもしれません。特に経済状況について言えば、ソ連が存在していた時代からすでに格差が存在していました。また、政治状況について言えば、ソ連の権力はほぼモスクワ、つまり現在のロシア連邦に集中していました。権力や経済の集中、その裏返しとしての格差は、国家の統一を妨げ、崩壊をもたらす原因でもあります。そのように考えると、ソ連の崩壊にはさまざまな要因があったとはいえ、もともと顕在化しつつあった各共和国間の経済的、政治的格差もその大きな一因であったと言えるのではないでしょうか。こういった歴史の振り返りは、自分たちの国について考える上でも非常に有益です。ソ連の歴史はなんとなく遠い国の話、遠い過去の話のようにも思われるのですが、その歴史を振り返ることで得られる学びは、日本という国家のあり方を問う際にも有益です。日本は特に富や権力、人口の一極集中が顕著な国であり、地方との格差は近年広がる一方です。このように自分たちの国について振り返る材料としても、ソ連の崩壊についての研究は有益となるでしょう。

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武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。