知られざるユーラシア⑤Ⅱ中央アジア(キルギス、トルクメニスタン、タジキスタン)

先日は、「知られざるユーラシア⑤Ⅰ」として、カザフスタンとウズベキスタンという2ヶ国を取りあげました。これら2ヶ国は中央アジア諸国のなかでも、比較的知名度が高く良く知られている国々です。旧ソ連の中央アジア5ヶ国のうち、残るはキルギス共和国、トルクメニスタン、タジキスタンの3ヶ国となりました。これら3つの国々については、名前を聞くのも初めて、という方々もいらっしゃるかと思います。名前くらいは聞いたことがあっても、なんとなく「スタン」系の国ということで、それぞれの国の違いまで意識している方は珍しいのではないでしょうか。本日はキルギス、トルクメニスタン、タジキスタンの3ヶ国について、それぞれの特徴や違いに着目しながら解説していきます。

キルギス共和国は、カザフスタンの南、ウズベキスタンの東に位置する国家です。東には中華人民共和国の新疆ウイグル自治区があります。キルギスの領土は約200,000平方キロメートルで、日本の半分よりは大きい程度の面積を持ち、中央アジア5ヶ国のなかでは下から2番目となります。キルギスの公用語はキルギス語とロシア語です。キルギス語を「国家語」、ロシア語を「公用語」とすることで、キルギス語に相対的に高い地位を与えています。基幹民族の言語に高い地位を与えているという意味で、カザフスタンに近い言語政策だと言えるでしょう。キルギス語はカザフ語やウズベク語と同じくトルコ系のテュルク語に分類され、系統的には特にカザフ語と近い関係にあります。人口は590万人です。首都はキルギス北部の都市ビシュケクで、この都市はカザフスタンとの国境付近にあり、カザフスタン最大の都市アルマトイの近くです。宗教的にはキルギス人の7割以上がイスラム教徒、残りがキリスト教徒とそれ以外となっており、カザフスタンやウズベキスタンと似た構成となっています。キルギスでは2005年に当時の大統領アスカル・アカエフ退陣を求める運動があり、ウクライナのオレンジ革命やジョージアのバラ革命に類似した運動として、「チューリップ革命」が起こりました。これにより新しい大統領バキエフが就任しましたが、政権は安定せず再び政権交代が起こり、その後の大統領選を経て政情は安定してきているようです。チューリップ革命においては、反ロシア色の強いウクライナやジョージアに類似した運動が起こったものの、キルギスはロシア語を公用語とするなど、ロシアを重視した外交を維持していることがわかります。

ウズベキスタンの南、アフガニスタンやイランといった中東の国に接しているのがトルクメニスタンです。旧ソ連15ヶ国のうち唯一、トルクメニスタンは「永世中立国」とされている国家です。それを裏付けるように、トルクメニスタンはロシアとの関係性を安定的に維持しているものの、独立国家共同体(CIS)の加盟国ではなく、あくまで「準加盟国」という立場に留まっています。カザフスタン、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタンが参加している中華人民共和国主導の上海協力機構にも、中央アジア諸国のなかで唯一参加していない状態となっています。独立後唯一の大統領であったサパルムラト・ニヤゾフ大統領は「終身大統領」という地位を持ち、国際社会では「独裁者」とも呼ばれていました。ニヤゾフ大統領は2006年に死去し、後継としてグルバングル・ベルディムハメドフ大統領が就任しました。ベルディムハメドフ大統領の就任後は、ニヤゾフ時代の独裁的な政治は薄れてきましたが、それでも他の中央アジア諸国における政権交代の例に漏れず、ベルディムハメドフも十分に独裁的と言える個人崇拝を軸にした政治を行っているようです。

トルクメニスタンの面積は約48万平方キロメートルで、中央アジアではカザフスタンに次ぐ広大の領土となっています。トルクメニスタンはカザフスタンと同じく、石油や天然ガスなどの天然資源を保有する産油国でもあります。人口は約520万人と、キルギスよりやや少ない程度となっています。トルクメニスタンの首都はアシガバートで、この都市はイランとの国境付近に位置しています。トルクメニスタンでは他の中央アジア諸国と同じく、イスラム教徒が多数派を占めています。トルクメニスタンの公用語はトルクメン語で、カザフ語、ウズベク語、キルギス語と同じくテュルク語族に分類され、特にトルコ語やアゼルバイジャン語と近い関係にあります。また、旧ソ連であったことから、ロシア語も広く通用します。カザフスタンやキルギスがロシア語を公用語とする一方、トルクメニスタンがそのような政策を行わないのは、「中立国」という立場上の問題もあると考えられます。外交的には、上述の通りCISの準加盟国となっており、CIS諸国の緊密な関係を保ちつつも、永世中立国として一定の距離感を保っていることも事実です。ロシアの強い影響を受けざるを得ない中央アジアにおいて、このような方針をとっていることはトルクメニスタンの特異な点だと言って良いでしょう。

ウズベキスタンとキルギスの南の南に位置し、アフガニスタン、パキスタン、新疆ウイグル自治区に接しているのがタジキスタンです。タジキスタンの面積は約14万平方キロメートルで、中央アジアのなかではもっとも小さな国となっています。しかし、人口は約740万人と、キルギスやトルクメニスタンよりも多くなっています。タジキスタンの公用語はタジク語です。タジク語は「タジク・ペルシア語」とも呼ばれ、イランの公用語であるペルシア語と非常に近い関係にあります。ペルシア語はインド・ヨーロッパ語族に分類される言語で、カザフ語、ウズベク語、キルギス語、トルクメン語が属するテュルク語族とはまったく別の系統となっています。そのため、タジキスタンは旧ソ連の中央アジア諸国のうち、唯一テュルク系ではない言語を公用語としている国だと言えます。また、カザフスタンやキルギスと同じく、ロシア語にも「共通語」として公的な地位が与えられています。宗教的には、タジキスタンでは他の中央アジア諸国と同じく、イスラム教徒が多数派を占めています。タジキスタンは独立国家共同体(CIS)に創設時から加盟し、現在ではCISの議長国となっています(CISの議長国は1年ごとの持ち回り制で、次の議長国はトルクメニスタンの予定)。そのため、ロシアとの緊密な関係を他の中央アジア諸国とともに保っていると言えるでしょう。また、タジキスタンは上海条約機構にも参加しており、これも他の中央アジア諸国と同様に、中国との関係強化を目指していると言えます。これまで見てきたように、タジキスタンは言語的にはイランと非常に近い関係にあるものの、政治的にはむしろテュルク系言語を公用語とする中央アジア諸国と足並みを揃える政策を行っています。

ここまで、キルギス、トルクメニスタン、タジキスタンという中央アジア3ヶ国の各国情報をまとめてみました。政治的に独自路線を保とうとしているトルクメニスタン、言語的に特徴を持ちながら政治的には周辺国と協調するタジキスタンなど、各国の傾向が見えてきたでしょうか。次に、3ヶ国の政治経済的な状況を比較してみることにしましょう。

まず、キルギス・トルクメニスタン・タジキスタンともに独立国家共同体(CIS)には参加しており、旧ソ連各国との協力体制を築こうとしています。しかし、トルクメニスタンは永世中立国と称している以上、その参加資格は「準加盟国」に留まっています。とはいえ、各国ともロシアや旧ソ連諸国との関係を維持していこうという方針にブレは見られないように思われます。一方、中国主導の上海協力機構に関していえば、キルギスとタジキスタンは参加しているものの、トルクメニスタンは不参加です。この協力機構の設立前、上海に集った5ヶ国(中華人民共和国・カザフスタン・ウズベキスタン・キルギス・タジキスタン)は「上海ファイブ」と呼ばれており、中央アジア諸国はロシアだけでなく中国の強い影響下に置かれつつあることも分かります。トルクメニスタンが上海協力機構への参加に積極的でないのは、やはり中立国としての立場や、欧米や日本をはじめとする西側諸国との関係性を考えてのことであると推察されます。このように、旧ソ連の中央アジア諸国はそれぞれ連帯的な関係にありつつも、対外的な関係に目を向けると、カザフスタン・ウズベキスタン・キルギス・タジキスタンの4ヶ国と、トルクメニスタンのあいだには緩やかな温度差が感じられるようにも思います。

さて、キルギス・トルクメニスタン・タジキスタンの経済状況にも注目してみましょう。いつもと同じように、一人当たり名目GDPを基準に経済力を比較することにしたいと思います。2017年の一人当たり名目GDPを見てみると、トルクメニスタンが6,642ドル、いるギスが1,207ドル、タジキスタンが800ドルで、トルクメニスタンの経済力が圧倒的に高いことが分かります。トルクメニスタンの一人当たりGDPは、バルト三国、ロシア、カザフスタンに次いで、15ヶ国中6位となっています。この数字は南ヨーロッパのモンテネグロやセルビアなど、旧ユーゴスラビア諸国と同等です。この理由としては、上記の通りトルクメニスタンが産油国であり、カザフスタンと同じく経済的に恵まれた条件の揃っている国であることが挙げられます。一方キルギスとタジキスタンのGDPは非常に低く、旧ソ連では14位、15位と、もっとも低い部類に位置します。これら2ヶ国からは、ロシアやカザフスタンへ多くの人々が出稼ぎに出ていると言われています。これまで旧ソ連各国の経済を比較してみると、「西高東低」の傾向にあることがお分かりいただけるでしょうか。キルギスやタジキスタンは大規模な天然資源も持たず、アフガニスタンやパキスタン、新疆ウイグル自治区といった情勢が不安定な国々に囲まれており、経済的にも不利な条件に立たされていると言えるかもしれません。

ABOUTこの記事をかいた人

武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。