教育について②法科大学院と法曹養成

前回は「教育」というテーマをこのブログで初めて扱い、早稲田大学と慶應義塾大学という2つの大学について解説しました。本日も教育の話をしていきたいと思います。大学を中心とする高等教育の分野で最近話題となっているのが、医師や弁護士といった高度な専門知識を有し、高いステータスのある専門家の養成です。医師に関しては、医学部入試における女性差別問題として、非常にセンセーショナルな取り上げ方がなされました。こちらは現在は問題の解明が進められているところですね。一方の弁護士については、かつて人気を誇っていた法学部・法科大学院の凋落という形でマスコミにも頻繁に取り上げられるようになっています。弁護士を目指す人が一時期よりも減っているということです。しかし、法科大学院について言うと、専門性・独自性の高い教育機関であるためか、あまり適切な評価がなされているようには思いません。そのため、本日は「法科大学院」という制度について、その目的や現状といった観点で解説していきたいと思います。

日本における法科大学院とは、法曹(弁護士・裁判官・検察官)を養成するための専門職大学院であり、2004年に全国各地に開設された新しい教育機関です。法科大学院の標準修業年限は3年ですが、短縮課程と呼ばれる2年生のコースも用意されており、実際には3年生より早く修了できる2年生の方が学生数も多くなっています。原則として、法科大学院を受験するためには大学(学部)を卒業している必要があります。ただし、優秀な学生の場合は「飛び級」を利用できるため、大学を3年で中退し、法科大学院に入学するというルートもあります。どちらにしても、大学入学は必須要件です。大学は法学部である必要はなく、どの分野の学部出身でも問題なく進学できます。法科大学院は法律以外の専門知識を持つ学生を求める傾向があり、特に理工系出身者や会社員経験者は法科大学院入試で有利になります。

法科大学院を修了すると、「法務博士(専門職)」という学位が授与されます。「博士」という名前が入っていますが、法務博士は「博士(法学)」や「博士(文学)」といった研究系の博士とは別系統で、「専門職学位」と呼ばれるものです。つまり、この博士を「博士号」と呼ぶと誤解を招く恐れもあります。とはいえ、英語では「Juris Doctor」と呼ばれており、「ドクター/ Doctor」と称する分には何ら問題はないと考えられます。法科大学院修了によって得られる資格として法務博士よりも重要なのが、司法試験(新司法試験)の受験資格です。201年まで行われていた司法試験(旧司法試験)は、受験資格に制限がなく、誰でも受験することができました。司法試験(新司法試験)では、高いハードルが設けられ、原則として法科大学院を修了した人だけが受験できるシステムになりました(もう一つの司法試験受験ルートとして、後述する「予備試験」があります)。そのため、実質的に法科大学院は司法試験の受験資格を得るための学校ということになります。司法試験は年1回行われていますが、受験資格には回数制限があります。かつて法科大学院修了者は3回までしか司法試験を受験できないこととなっていました。しかしこの回数制限は緩和され、現在では5年間受験資格は有効とされています。つまり、毎年受験した場合は最大5回受験のチャンスがあるということです。もしこの5回のチャンスをすべて逃してしまったらどうなるのでしょうか。正解は「ふりだしにもどる」です。再度司法試験の受験資格を得るためには、もう一度法科大学院を修了するか、後述する予備試験に合格する必要があります。

法科大学院は、「司法制度改革」の一環として、司法試験合格者を増やし、裁判官・検察官を増やすことなどを目的として創設されました。法科大学院の教育システムはアメリカ合衆国の「ロー・スクールLaw School」をモデルとしています。日本でも法科大学院を「ロースクール」と呼ぶことが一般的になっています。法科大学院の主な目的としては、法律学の理論と実践を合わせて学ぶことが挙げられ、その目的を果たすため、問いかけや議論を中心とした「ソクラテス・メソッド」と呼ばれる方法で教育が行われています。また、法学者だけでなく、弁護士・裁判官・検察官など、実際に法律の現場で働いているプロ(法律実務家)が教育に当たっていることも特徴です。学生が修了後に即戦力として活躍できるよう、実際の法律相談を行ったり、模擬裁判で裁判を体験したり、法律事務所で働いたりと、実践的な教育に重きを置いています。

さて、法科大学院の目的は法曹養成だということは分かりましたが、法曹になるためにはどのような道をたどる必要があるのでしょうか。まずは法科大学院を修了し、司法試験に合格する必要があります。司法試験合格後すぐに法曹になれるわけではなく、「司法修習生」として最高裁判所の管轄のもとで1年間の修習を行い、「司法修習生考試(二回試験)」と呼ばれる試験に合格して修習が終わります。司法修習後、弁護士、裁判官、検察官というそれぞれの道へ進んでいくことになっています。

このように、法曹になるためにはかなり長い期間、いくつものハードルを乗り越える必要があるのです。大学入学、大学卒業、法科大学院入試、司法試験、司法修習、二回試験などなど、さまざまなハードルが用意されていますが、もっとも高いハードルはやはり司法試験です。司法試験といえば、日本を代表する難関試験として広く知られていますね。気になる合格率ですが、平成30年は約29%、平成29年は26%、平成28年は23%、平成27年は23%(いずれも小数点以下四捨五入)となっています。受験者のうち、4人に1人は合格している計算となりますね。「難関資格なのにこんなに高いの?」と思われる方も多いでしょう。例として旧司法試験の合格率を見ますと、大体23%程度となっています。また、法律系の他の資格を見ると、司法書士試験が23%、行政書士試験が10%前後となっています。現在の司法試験は簡単になってしまったのでしょうか。それは違います。鍵となるのは、受験者の層です。旧司法試験・司法書士試験・行政書士試験には受験資格がなく、学力に関わらずさまざまな人が受験しています。そもそも受験者全体に占める優秀な人の割合が少ないのですね。一方、現在の司法試験が原則として法科大学院修了者が受験することになっています。法科大学院修了者は司法試験に向けて数年間、法律や法律実務の勉強をしてきた人々です。そのような人々しか受けられない試験の合格率20%台というのは、かなり低い水準だと言って良いでしょう。

さて、この司法試験の合格率ですが、水準としては下降傾向にあると言って良い状態です。というのも、新しい司法試験がスタートした平成18年の合格率は48%、平成19年は40%、平成20年は33%と、少しずつ下がって現在の数字となってきたのです。初年度の合格率は実に50%近く、受験者の半数が合格していたというのは驚きですね。前述の通り、司法試験の受験資格は5年間有効となっていますが、法科大学院修了者の約70%は3年目までの受験で司法試験に合格していると言われています。これでもまだ、医学部卒業者の医師国家試験合格率と比較すると、とても低い数字です。法科大学院修了者の司法試験合格率は、出身大学院によってもかなり差がでています。一般に、東大京大一橋早慶中など、法律分野で名門とされていた大学の法科大学院を修了した人々は、全体の平均を上回る司法試験合格率を出してきています。一方で、修了者の司法試験合格率は1桁台、あるいは0人といった学校もあり、2011年以降は法科大学院の閉鎖が大きな問題となってきました。2011年以降は毎年、学生の募集を停止する大学院が続出しています。法科大学院は当初、全国に74校存在していました。しかしこれまでに35校が学生募集を停止し、法科大学院の数は半減してしまいました。これにより、かつてさまざまな県に点在していた法科大学院は首都圏と関西に集中し、法科大学院がない県が多くなってしまいました。

法科大学院を修了して司法試験に合格できなかった人々はどうなってしまうのか、と思いますが、法律の知識はさまざまな場所で必要とされており、弁護士資格を持たないまま一般企業や公的機関に就職する法科大学院修了生も多いとされています。また、法律に関する資格は司法試験に限らず、司法書士・行政書士・社会保険労務士・海事代理士などさまざまなものがあり、これらの道に進んでいく人も多いようです。

司法試験を受験するためには、原則として法科大学院を修了する必要があると書きました。しかし、法科大学院の学費は一般的な大学院と比較して高額になっています。また、法学部で優秀な成績を収めて法科大学院に飛び級で入学したとしても、修了までに5年間かかります。その後司法試験に現役合格しても、法曹になるまでには大学入学から数えて6年間かかることになります。このような状況もあり、経済的な事情から法科大学院に通えない人への救済措置として設けられた制度が「司法試験予備試験」です。予備試験はいわば「司法試験を受けるための試験」であり、予備試験に合格すれば司法試験を受験することができます。予備試験には受験資格はなく、誰でも受験することができます。誰でも受験でき、法科大学院に通うための時間とお金というコストを節約できることから、この予備試験はかなりの人気を誇るようになってきました。また、試験一発で司法試験受験資格を得ることができるため、優秀な学生ほど法科大学院進学より予備試験受験を選ぶようになったと言われています。一説には、予備試験は本番の司法試験よりも難しく、予備試験に合格すれば司法試験合格は決まっている、とまで言う人もいます。実際、予備試験合格者の司法試験合格率は70%です。全体合格率が20%台であることを考えると、これは驚異的な数字ですね。優秀な学生が予備試験に集中することで、法科大学院離れが進んでいるという考え方もあります。つまり、上述のように法科大学院入学者が減少し、法科大学院の閉鎖が相次いでいることの原因が予備試験だという考え方ですね。しかし実際には、法科大学院在学中に予備試験を受験する人々も多く、必ずしもその通りとは言えない現状があるようです。

これまで書いてきたように、法科大学院という制度にはさまざまな改善点があり、今後の動向が注目されます。

ABOUTこの記事をかいた人

武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。