法曹について①法曹の職務の概要とその象徴

古くから日本社会では、「高収入」で「かっこいい」花形の職業として、医師と弁護士が羨望の対象となってきました。その証拠として、民放の番組で常に人気を博しているのが医師や弁護士を主人公とするドラマですね。また、近年では医学部入試が非常に難関となってきており、この原因が「高収入」な医師に対する憧れだと考えられています。弁護士の場合、その養成機関である法科大学院の評判は落ちてきているものの、法学部は文系学部のなかでも「つぶしがきく」、つまり就職にも資格取得にも有利ということで、人気は落ちていません。

上記のようなあまりに単純な職業観の基礎には、大企業に所属するか、士業などの資格で独立するか、という2択を迫られる硬直化した日本のキャリアシステムがあるように思われます。たしかに弁護士や医師は一般的な会社員よりも高収入が見込める職業ではあるのですが、その専門性は非常に高く、かつ個人が負う責任はとても重大です。とても「高収入」とか「かっこいい」という動機でなって良い仕事ではないように思われます。

では、弁護士や医師といった職業に就くためには、どのようなキャリアを積む必要があるのでしょうか。医師に関しては、近年それほど大きな変化はなかったように思われます。一方、弁護士の養成システムはここ20年ほどで大きく変貌しました。以前、こちらのブログでは法科大学院をテーマとした記事を掲載しましたが、まさに法科大学院がその変貌の中核にある制度です。このように大きな変化があった弁護士の世界ですが、具体的な内部事情は一般にあまり知られていないようです。

本日は、弁護士という職業の現状について客観的に考察していきたいと思います。また弁護士に限らず、裁判官、検察官についても触れていきます。というのも、弁護士、裁判官、検察官は「法曹」あるいは「法曹三者」と呼ばれ、共通する養成課程を持つ隣接した不可分な職業だからです。

さて、日本には法律を扱う職業にさまざまな種類があります。上に挙げた弁護士、裁判官、検察官に加え、司法書士、行政書士、社会保険労務士も法律専門職ですし、公認会計士や税理士などの士業も法律に関連した職業です。また、裁判所書記官、検察事務官など、裁判所や検察庁に置かれる職業も法律を扱っています。このようなさまざまな職業は「法律専門職」という名前で一まとめにされることも多いようです。上に挙げた職業はどれも、資格試験か採用試験という形で法律の専門知識を問われるものなので、「専門職」と呼ぶにふさわしいでしょう。

上記の「法律専門職」のなかでも、特別な権限を持ち、また司法試験というもっとも高度な試験に合格する必要のある仕事があります。それこそが「法曹」という仕事です。法曹も法律専門家には違いないのですが、そのなかでも特に重要な地位を占める職業と言えます。「法曹」とは、「法を司る官僚」という意味があります。本来は裁判官と検察官を指す用語でしたが、同じく司法試験合格を必要とする職業である弁護士も「法曹」と呼ばれるようになりました。

法曹となる資格は「法曹資格」と呼ばれ、原則として司法試験合格を条件としています。司法試験に合格しただけで法曹資格を得られるのではなく、試験合格後、司法修習という1年間の研修を受ける必要があります。また、裁判官や検察官となるためには、この修習のあとに裁判所や検察庁に採用(任官)される必要があります。このように、法曹になるためには非常に高いハードルを超える必要があり、それだけに法曹に与えられている地位も高いもものとなっているのです。

さて、一くくりに法曹と呼ばれている弁護士、裁判官、検察官ですが、実際にどのような仕事をしているのでしょうか。弁護士はなんとなく想像もできそうですが、裁判官や検察官ともなると、これといったイメージがない方も多いと思います。

弁護士の仕事は、大まかに言えば民事事件と刑事事件に分類されます。民事事件とは、お金を貸したのに反ってこないというような問題や、離婚や相続などの問題が含まれます。刑事事件は、罪を犯した人の弁護であるとか、犯人に間違われた人の無実を証明するとか、ドラマで良く見る弁護士の仕事に近いものです。弁護士は多くの場合、弁護士事務所に所属して職務を行っています。弁護士事務所には大小さまざまなものがあり、個人事務所という場合も多いです。また、最近では企業の法務部等に所属している弁護士も多く、彼らは「インハウスローヤー」などと呼ばれています。他にも、役所や法テラスなどに所属する弁護士もおり、弁護士の勤務形態はかなり多様になってきています。弁護士の人口は約4万人となっており、法曹三者のなかではずば抜けて数が多いです。

裁判官は司法権を行使する仕事で、最高裁判所か下級裁判所に所属して職務を行います。最高裁判所裁判官の役職には、「最高裁判所長官」と「最高裁判所判事」があり、下級裁判所の役職には「高等裁判所長官」、「判事」、「判事補」、「簡易裁判所判事」があります。裁判官の仕事は、立法や行政から独立して、その良心に従って審判を行うことです。よりかみ砕いて言えば、訴訟の指揮をしたり、判決を書いたりするということですね。この「独立して」という部分が非常に大切で、金銭で買収されるなどして公平な判断に支障が出ないよう、裁判官の賃金や地位は憲法で保障されています。裁判官になるためには、司法修習のあと、「判事補」として採用される必要があります。「判事補」として一定期間の実務経験を経ると「判事」に任命されます。裁判官の人口は約3千人で、弁護士より少なく検察官よりも多くなっています。

検察官の主な仕事は、刑事事件の捜査や公訴を行うことです。検察官は検察庁に所属し検察権を行使します。しかし、名目として検察官は「独任制官庁」とされており、検察庁はその事務を管轄する官署にすぎないとされています。検察官の役職としては、「検事総長」、「次長検事」、「検事長」、「検事」と「副検事」が存在します。検察官は起訴権限の独占という大きな権限を持っているため、裁判官ほどではないものの、ある程度の独立性が認められています。検察官となるためには、裁判官の場合と同じく、司法修習のあとに検察庁(法務省)から検事として採用される必要があります。また、検察事務官や裁判所書記官のなかから副検事として採用されるという道も存在します。検察官の人口は検事と副検事合わせて約2700人と裁判官よりも少なくなっており、検察官は人手不足だと言われています。

法曹という職業の高い地位の象徴となっているのが、それぞれの職を代表するバッジ(記章または徽章)です。

弁護士の場合、ドラマでもおなじみのいわゆる「弁護士バッジ」を身に着けていますね。このバッジはただの飾りというわけではなく、弁護士としての身分を示す身分証としての意味があります。弁護士バッジのモチーフは、自由と正義を象徴するひまわりです。また、ひまわりのなかには公正と平等を象徴するはかりが描かれています。ひまわりは弁護士という職業を象徴する花としても比較的知られているようです。

裁判官と検察官も、弁護士と同じくバッジを身に着けています。裁判官バッジのモチーフは八咫鏡です。八咫鏡は三種の神器として知られており、真実を曇りなく写す公正の象徴とのことです。八咫鏡のなかには、裁判官の「裁」という字が篆書体で書かれています。弁護士や検事のバッジと比較すると、非常に渋い雰囲気のバッジです。また、裁判官を象徴する衣服として「法服」があります。法服は裁判官が着用する黒いガウンのような服で、裁判官という職務の公正さを象徴する制服とされています。法服は裁判所の規則で制服として定められているので、テレビで見る裁判官は基本的にこの服を着用していますね。

検察官のバッジは、「HERO」などのドラマで見慣れている方も多いのではないかと思います。検察官バッジの中央には旭日(赤い丸)があり、その周辺に白い菊の花弁と黄色い菊の葉があしらわれています。また、このデザインは四方八方に広がる霧と日差しのようにも見えることから、検察官バッジを「秋霜烈日」と呼ぶこともあります。「秋霜烈日」とは、「秋におりる霜と夏の厳しい日差し」を指す言葉で、検察官の職務の厳正さを象徴していると言います。なんともキャッチーなシンボルですね。

上記のように、弁護士、裁判官、検察官のバッジにはそれぞれ象徴的な意味があり、各職務の特徴や理想を表しています。また、バッジは単純な象徴というだけでなく、身分証として実務上の機能も果たしているという点で重要なのです。このなかでは弁護士バッジがもっとも有名ですが、「秋霜烈日」という雅名のある検察官バッジも非常に印象的ですね。

本日は、日本社会の花形の職業とされる弁護士を含め、法曹と言われる弁護士、裁判官、検察官の職務の概要とその象徴について解説してきました。「かっこいい」職業の代表格として知られる法曹三者の職業ですが、その職務には「公正さ」や「厳正さ」、「良心」、「正義」などが求められ、単純に大衆的なイメージだけで選んで良い職業ではなさそうです。法曹の仕事に求められる「公正さ」や「厳正さ」といった理想は、それぞれのバッジにも描かれていますね。

「高収入」と言われている法曹という職業ですが、その背景には、「公正さ」を維持するための身分保障という意味合いがあり、単純に金儲けをすることを目的とする仕事ではありません。何よりも重要なのは、現実の事件のなかで「正義」や「公正さ」と向き合っていく強さなのではないかと感じました。純粋な営利ではなく、正義を追求したい人々にとっては、法曹は非常に魅力的な職業といえるでしょう。

ABOUTこの記事をかいた人

武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。