近年、日本では高校、大学の時点で留学する人が増えてきました。先日は千葉大学が全学生の留学を必修化することを発表するなど、留学は国民のあいだで一般化してきているようです。ただ、大学生の留学先として選ばれているのが、ほとんどアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアなど、英語圏の大学のようです。先日も書いたように世間では未だに「グローバル化=英語化」という構図が一般的であり、ここから「留学=英語圏」という図式も出てくるのでしょう。
しかし、今後社会が英語化から多言語化へと進んでいくにあたって、英語以外の外国語で議論や共同作業を行うスキルが求められるようになると考えられます。そうなった時、英語圏で取得したスキルは必ずしも活かせるとは限りません。英語圏への留学は日本でも一般化してしまったため、英語圏での留学経験では、もはや他の人材との差別化も難しくなってきています。
上記のような状況を考慮すると、非英語圏への留学という選択肢が自然に出てきます。すでに国内の上位大学では、英語圏に限らずさまざまな地域に留学生が派遣されています。この流れが進むと、次第に留学先のトレンドは英語圏から非英語圏へと移っていくでしょう。しかし、日本では非英語圏の大学に関する情報が限られているように思われます。アメリカのアイビーリーグやイギリスのオックスブリッジといった名門大学についてはほとんどの人が知っていますが、他の国の大学については一般的に知られていません。そこで今回は、世界大学ランキングを参考にしながら、非英語圏の名門大学について解説していきます。データとしては「QS World University Rankings 2019」を参照します。
世界大学ランキングは英語圏のランキングなので、必然的に英語圏の大学が有利になってきます。とはいえ、非英語圏の大学も上位にランクインすることはあります。以下、100位までの大学を地域別、国別に見て行きましょう。まずはヨーロッパから。
ヨーロッパ
チューリッヒ工科大学(スイス連邦工科大学チューリッヒ校):7位
言語:ドイツ語圏
アメリカやイギリスの名門校を抑えて7位に入ったのが、チューリッヒ工科大学です。名称から分かる通り、自然科学や工学を専門分野とする理工系大学で、これまでに21名にノーベル賞受賞者を輩出しています。ドイツ語圏ではもっとも上位の大学です。
スイス連邦工科大学ローザンヌ校:22位
言語:フランス語圏
こちらはスイス連邦工科大学のローザンヌ校。スイス連邦工科大、強いですね。チューリッヒ校はドイツ語圏ですが、ローザンヌ校はフランス語圏となります。フランス語圏ではもっとも上位の大学ということになります。
PSL研究大学:50位
言語:フランス語圏
フランス語圏2位にランクインしたのは、パリに所在するPSL大学。なんとこの大学、日本語の情報がほとんどないのですが、2010年に設立された新しい研究型大学です。所在地はパリのカルチェラタン。カルチェラタンといえば、ソルボンヌ大学(パリ大学)の所在地でもあり、フランスで一番アカデミックな地区です。
デルフト工科大学:52位
言語:オランダ語圏
オランダからランクインしたのは、3名のノーベル賞受賞者を輩出しているデルフト工科大学。大学ランキングでは、理工系大学のランクが上にでてくる傾向にあります。オランダには他にも名門とされる大学があることを忘れないよう。
アムステルダム大学:57位
言語:オランダ語圏
オランダの首都、アムステルダムにある総合大学です。オランダ語は英語に非常に似ている言語なので、オランダでは英語も広く通用します。アムステルダム大学も例に漏れず、オランダ語と英語どちらも使えるようです。
ミュンヘン工科大学:61位
言語:ドイツ語圏
また工科大学か、と思わないこともありませんが、ドイツからランクインしたのはミュンヘン工科大学。過去に17人のノーベル賞受賞者を輩出している名門校です。
ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン:62位
言語:ドイツ語圏
こちらはミュンヘンに所在する、ドイツを代表する総合大学の1つです。いわゆるミュンヘン大学。ドイツ語圏の総合大学としては最高レベルの大学と言ってよいでしょう。
ルプレヒト・カール大学ハイデルベルク:64位
言語:ドイツ語圏
ドイツを代表する名門大学として有名なハイデルベルク大学です。ヘーゲルやハーバーマス、ヤスパースなど、名だたる哲学者を輩出してきた総合大学。
エコール・ポリテクニーク:65位
言語:フランス語圏
理工系グランゼコールとして名高い名門校です。グランゼコールとは、高度職業専門人の養成を目的とする高等教育機関で、フランス国内では大学よりも高い位置にあるとされています。
ソルボンヌ大学:75位
言語:フランス語圏
世界にその名を轟かせるソルボンヌ大学。ランキングに有利な理工系大学より順位は下になりますが、総合大学としてはフランス語圏最高レベルの評価となっています。ソルボンヌ大学とは、パリ大学という大学のグループに含まれる一部の大学を指します。
チューリッヒ大学:78位
言語:ドイツ語圏
チューリッヒにある総合大学。総合大学としてはスイス1位になります。やはり全体的にスイスは強いですね。
コペンハーゲン大学:79位
言語:デンマーク語圏
デンマーク1位にランクインしたのは、首都コペンハーゲンの総合大学。哲学者キェルケゴールなど、デンマークを代表する知識人を輩出してきたことで知られています。
ルーヴェン・カトリック大学:81位
言語:オランダ語(フラマン語)圏
ベルギーのルーヴェンにある大学。ベルギーはオランダ語とフランス語の二言語が公用語ですが、こちらはオランダ語圏なのでオランダ語が公用語となっています。
モスクワ大学:90位
言語:ロシア語圏
ロシアを代表する名門大学であるモスクワ大学。ロシアの知を司る大学と言っても過言ではなく、国内で圧倒的な存在感を放っています。キャンパスはスターリン様式と呼ばれる巨大な城のような建物です。
ルンド大学:92位
言語:スウェーデン語圏
スウェーデンを代表する総合大学がランクイン。ルンドはスウェーデン南部にある都市です。
アイントホーフェン工科大学:99位
言語:オランダ語圏
オランダのアイントホーフェンにある工科大学。やはり、工科大学はランキング上位に出やすいようです。全体的に、オランダ語圏の大学が高くされていることもわかってきました。
ヨーロッパの大学で100位までにランクインしたのは上記の16大学です。言語圏別にまとめると、ドイツ語圏5校、フランス語圏4校、オランダ語圏4校、ロシア語圏1校、デンマーク語圏1校、スウェーデン語圏1校でした。ドイツ語、フランス語、オランダ語の大学が圧倒的に評価されていることがわかりました。また、旧ソ連諸国の共通語であるロシア語と、先進国である北欧のデンマーク語とスウェーデン語の大学も比較的強いと言えそうです。次にアジアの大学を見てみることにします。なお、アジアのうちシンガポールと香港は英語が公用語となっているので、英語圏の定義に入ると見なして外します。
アジア
清華大学:17位
言語:中国語圏
非英語圏のアジアで1位に輝いたのは、中国の名門清華大学。東大を抑えてトップとなりました。
東京大学:23位
言語:日本語圏
われらが名門、東京大学は非英語圏のアジアで2位にランクイン。
北京大学:30位
言語:中国語圏
清華大学と並ぶ中国の名門、北京大学。十分上位に位置しています。
京都大学:35位
言語:日本語圏
東大のライバル、京大。強豪ぞろいのなかで35位となっています。
ソウル大学校:36位
言語:韓国語圏
韓国最大の名門、ソウル大学。中国と日本の名門大学を追い上げつつありますね。
KAIST:40位
言語:韓国語圏
韓国の理工系専門大学。「世界ランキングでは理工系が強い」の法則が現れてきました。
復旦大学:44位
言語:中国語圏
上海に所在する中国の名門校。清華大学や北京大学に次ぐランクとなりました。
東京工業大学:58位
言語:日本語圏
東大、京大に次ぐランクとなったのは、理工系の名門東工大。やはりランキングでは理工系は強いですね。
上海交通大学:59位
言語:中国語圏
理工系が強い上海の名門校。中国の元指導者である江沢民の出身校として知られています。
大阪大学:67位
言語:日本語圏
旧帝国大学3位となったのは阪大。阪大は総合大学でありながら、理工系の伝統が強い大学です。「白い巨塔」のモデルとしても有名ですね。
浙江大学:68位
言語:中国語圏
日本ではそれほど知られていませんが、中国屈指の名門校として有名です。
国立台湾大学:72位
言語:中国語圏
台湾1位の大学となったのは台湾大。台湾大は日本統治時代の台北帝国大学が起源
となっています。
東北大学:77位
言語:日本語
旧帝国大4位にランクインしたのは東北大。東京からも比較的近く、幅広い受験生を集める大学ですね。
浦項工科大学校:83位
言語:韓国語圏
韓国の工業都市、浦項に位置する工業大学。
高麗大学校:86位
言語:韓国語圏
韓国を代表する名門私立大学。早稲田大学とは姉妹校の関係にあり、「韓国の早稲田」と呼ばれることもあります。
マラヤ大学:87位
言語:マレー語圏
マレーシア1位にランクインしたのは、マラヤ大学。マレーシア国内の名門総合大学として知られています。
中国科学技術大学:98位
言語:中国語圏
カリフォルニア工科大学をモデルとした科学技術系大学です。
成均館大学校:100位
言語:韓国語圏
李氏朝鮮の最高教育機関成均館を母体とする私立大学。ソウルに所在しています。
非英語圏のアジアの大学からは18校がランクインしています。言語圏別に見ると、中国語圏7校、日本語圏5校、韓国語圏5校、マレー語圏1校となっています。圧倒的に東アジアの中国語、日本語、韓国語の大学が強いことが分かりました。
以上の結果をまとめると、ヨーロッパではドイツ語、フランス語、オランダ語、アジアでは中国語、日本語、韓国語の大学がランキングでは上位に位置する傾向にあります。非英語圏の留学先の選択肢として、まずこれらの言語圏に注目しても良いでしょう。オランダ語は例外ですが、それ以外の5つの言語は日本でも学ぶ場所が多いため、日本である程度勉強してから留学することが可能です。