言語について③ヨーロッパの二大諸語・ゲルマン諸語とロマンス諸語

こちらのブログではこれまで、言語系統や言語学習についての話題を提供してきました。言語系統は純粋に言語学的な概念ですが、言語学習をするうえでも、言語系統についての知識は応用が可能です。昨日の記事では、これからはアジアや南米などの言語、日本で使用する可能性が高い言語を習得することが重要だと書きました。とはいえ、現状では日本で語学といえば、英語、フランス語、ドイツ語などヨーロッパの主要言語を対象としていることが多いです。そのため、本日は上に挙げた主要なヨーロッパの言語を、言語系統という観点から見てみたいと思います。

まず、言語系統とはなにか、ということをおさらいしておきましょう。言語系統とは、「現在存在する世界の言語は『祖語』という1つの言語から分岐した」という考え方のもと、さまざまな言語の近似性を系統立てて説明したものです。他の分野に例えるなら、生物学の分類や、家系図のようなものに似ています。言語系統を明らかにする学問分野を比較言語学といい、近現代に発展したこの学問によって、世界中の言語の系統が明らかにされました。といっても、すべてが明らかになったわけではなく、理論的には穴だらけな部分も多いです。比較言語学はヨーロッパで発展した学問なので、当然ながらヨーロッパの言語については、ほぼすべてといって良いほどに研究されつくされています。よって、ヨーロッパの言語系統については、ほとんど疑う余地もなく証明されていると言えます。

比較言語学では、ヨーロッパやユーラシア大陸で話されている多くの言語が「インド・ヨーロッパ語族」という言語系統に分類されています。インド・ヨーロッパ語族の言語はもともと「印欧祖語」という共通の祖先から分岐したものだとされています。現在では、インド・ヨーロッパ語族の言語はさまざまな種類に分岐してしまっているので、下位分類もかなり充実しています。言語系統において「語族」は一番大きな分類群、喩えるなら親戚関係のようなものを指します。その下位の分類には「語派」というものがあります。語派はいわば「家族」のような単位と言えます。

インド・ヨーロッパ語族に含まれるさまざまな語派のうち、ヨーロッパでもっとも存在感を持っている二大語派が「ゲルマン語派」と「イタリック語派」です。ゲルマン語派とは、いわゆるゲルマン系と呼ばれる言語群のことです。ゲルマン語派には、英語、ドイツ語、オランダ語、スウェーデン語、デンマーク語、ノルウェー語などが含まれています。一方、ロマンス語派とは、いわゆるラテン系と呼ばれる言語群のことです。イタリック語派には、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、ルーマニア語などが含まれています。ゲルマン語派とイタリック語派に含まれる言語は、ヨーロッパでは主要言語とされており、話者数が多いだけでなく、伝統的にヨーロッパの外交等で用いられてきた言語です。また、上記の通り、英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語など、日本をはじめ世界中で学ばれている主要な言語がゲルマン語派とイタリック語派に含まれているのです。なお、世界的に主要な言語と見なされているロシア語もインド・ヨーロッパ語族の言語ですが、ゲルマン語派でもイタリック語派でもなく、「スラヴ語派」という別の語派に含まれています。

まずはゲルマン語派(英:Germanic languages・独:Germanische Sprachen)について見てみましょう。上記の通り、ゲルマン語派には、英語、ドイツ語、オランダ語、スウェーデン語、デンマーク語、ノルウェー語、アイスランド語など、北西ヨーロッパの言語が含まれています。ゲルマン語派はさらに北ゲルマン諸語と西ゲルマン諸語という2つのグループに分類されます。北ゲルマン諸語にはスウェーデン語、デンマーク語、ノルウェー語、アイスランド語などのいわゆる「北欧」の言語が含まれており、通訳なしである程度意思疎通ができるほどに類似性があります。一方、西ゲルマン諸語には英語、ドイツ語、オランダ語などが含まれていますが、英語とドイツ語・オランダ語のあいだにはかなり大きな違いがあり、意思疎通は困難です。同じ語派に含まれるからといって、必ずしもお互いに通じあうというわけではないのですね。なお、ゲルマン語派は「ゲルマン祖語」という共通の言葉から分岐したとされていますが、その際に「グリムの法則」という一定の法則に従って音が変化したとされています。「グリム」は「グリム童話」の作者であるグリムさんのことです。実は、グリム童話のグリム兄弟は言語学者としても非常に有名なのです。

さて、ゲルマン語派が家族のような関係にあるといっても、実際どの程度似ているのか、ピンとこないかと思います。参考までに、同じ単語をゲルマン語派のさまざまな言語で表記してみることにしましょう。「言語」という単語は次のようになります。英語だけがフランス語由来の単語を使っており、独特の存在感がありますね。

英語:Language

ドイツ語:Sprache

オランダ語:Taal

スウェーデン語:Språk

デンマーク語:Sprog

ノルウェー語:Språk

さて、次にイタリック語派を見てみましょう。イタリック語派にはさまざまな言語が存在していましたが、ほとんどが死滅し、現在残っているのはロマンス諸語と呼ばれるグループのみです。ロマンス諸語には、上に挙げたフランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、ルーマニア語などが含まれています。ロマンス諸語はすべてラテン語から派生した言語で、それぞれが非常に近い関係にあります。ロマンス諸語の下位分類についてはかなり論争があるようで、決定的なものを示すのは難しいのですが、西ロマンス語、南ロマンス語、東ロマンス語の3つに分けることがあるようです。西ロマンス語にはフランス語、スペイン語、ポルトガル語が、南ロマンス語にはイタリア語が、東ロマンス語にはルーマニア語が含まれています。また、もう一つの方法として、ロマンス語が話されている地域(フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、ルーマニア等)を地理的に東と西に分ける方法もあります。この分類では、ロマンス語の地域を西ロマニア(フランス語、スペイン語、ポルトガル語、北部イタリア語)と東ロマニア(ルーマニア語、中南部イタリア語)という2つに分割します。西ロマニアと東ロマニアを分割する境界線は、イタリアのラ・スペツィアとリミニという街にまたがっていることから、「ラ・スペツィア=リミニ線」と呼ばれています。このように、ロマンス諸語にはさまざまな分類方法が存在しているわけですが、ゲルマン語派と比較すると、ロマンス諸語はラテン語という1つの言語から派生しただけあって、類似性もかなり残っていると言えます。

いずれにせよ、ロマンス諸語が古代のラテン語から派生してきたことは確実とされています。ラテン語は言うまでもなく、ローマの公用語だった言語ですが、ローマの領土がヨーロッパ中に拡大するなかで、ラテン語の話者も広がっていきました。しかし、時代が下るにつれ、彼らの話すラテン語には相違点が増え、しだいにフランス語、イタリア語、スペイン語のような言語と呼べるほどの違いにまでなっていったのです。

と、理論的な部分をいろいろと説明してしまったのですが、やはり実際の例を見なければ言語がどのように似ているのかを想像することはできないと思います。ここでもゲルマン語派と同じく、ロマンス諸語の単語を並べてみることにしましょう。例として「歌う」という動詞をロマンス諸語の各言語で書いてみます。

ラテン語:cantare

フランス語:chanter

イタリア語:cantare

スペイン語:cantar

ポルトガル語:cantar

ルーマニア語:a cânta

どの単語もかなり似た形をしていることがわかります。実際に発音すると違いも出てくるのですが、綴りには共通性が見られます。1つの例だけを挙げて類似性を強調するのは、学術的には正しいやり方ではありませんが、ここは学術的な発表の場ではないので良しとしましょう。

本日は、ゲルマン語派とイタリック語派(ロマンス諸語)という観点から、英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語などの、ヨーロッパの主要言語を捉えなおす試みを行いました。なんとなく「ゲルマン系」とか「ロマンス系」という表現を使う場面はありますが、実はこのように、比較言語学的な裏付けのある概念だということには注意しておきたいものです。

ゲルマン語派やイタリック語派に含まれる言語は、それぞれ語派内で類似性を持つことはお分かりいただけたかと思います。ただ、言語を比較するうえでもう1点注意すべきことがあります。それは「借用語」です。例えば、英語はゲルマン語派のなかでも特異な部分あり、ドイツ語やオランダ語とはそれほど似ていません。これは、英語がラテン語やフランス語などのロマンス語から大量の単語を借用したためです。先ほど例にあげた「Language」もフランス語から来た単語で、もとをたどればラテン語に行きつきます。このように、言語系統が必ずしも類似性の根拠となるわけではない点には注意が必要です。例えば日本語には中国語からの借用語(漢語)が大量に存在しています。しかし、日本語と中国語が比較言語学的にはまったく別の系統の言語とされています。

以上の点に注意しつつ、言語系統に着目すると、言語学習もスムーズに行えるようになるかもしれません。例えば、フランス語を学んだあとさらに別の外国語を習得したいとき、イタリア語やスペイン語などのロマンス諸語を選択するという手もありだと思います。残念ながら、英語とドイツ語のように、言語系統が同じでも類似性がそれほどない場合もありますが、言語系統を外国語学習の大まかな指標としてみるのも良いでしょう。

ABOUTこの記事をかいた人

武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。