日本の都市について②近代都市の象徴としての地下鉄

東京や大阪など、大都市で生活する我々の多くは、毎日のように地下鉄という公共交通機関を使って移動しています。東京ではJRのような地上の鉄道やバスよりも、地下鉄を使う頻度は多いはずです。大都市のインフラとして、地下鉄は不可欠な要素の一つであると言って良いでしょう。地下鉄の歴史はそれほど古いわけではなく、世界初の地下鉄が開通してから、せいぜい150年ほどしか経っていません。にもかかわらず、地下鉄は都市生活に不可欠な存在となっているのです。さらに言えば、地下鉄は各都市の構造を決定づける軸のようにもなっているのです。

鉄道を地下に走らせるという発想は、今でこそ普通のことですが、歴史的にはかなり奇抜なものだったと言えるかもしれません。イギリスの弁護士チャールズ・ピアソンは、ロンドンのパディントン駅からファリンドン駅のあいだに、約6kmの地下鉄を建設することを提唱しました。この路線は1863年にメトロポリタン鉄道の一部として開通し、現在ではロンドン地下鉄サークル線の一部となっています。現在、「東京メトロ」や「パリメトロ」のように、地下鉄を「メトロ」と呼ぶことが一般的となっていますが、この名称はメトロポリタン鉄道から取られたものだとされています。

ロンドンでの地下鉄開業後、地下鉄の技術はヨーロッパやアメリカに広まっていきます。1875年にはトルコのイスタンブールに、1896年にはハンガリーのブダペストに、1898年にはアメリカ合衆国のボストンにも地下鉄が開業しました。さらに、1900年にはいよいよフランスのパリに、1902年にはドイツのベルリンにも地下鉄が建設されました。このように、地下鉄は19世紀後半から20世紀初頭にかけて、欧米諸国で盛んに建設されるようになるのです。

日本について言うと、すでに1915年には東京駅と東京中央郵便局とのあいだ、1925年には宮城電気鉄道の仙台駅と東七番町のあいだに地下路線が開通していました。しかし、これらの路線は数百メートルと、かなり短いものだったようです。本格的な地下鉄の開業までは、少し時間が必要でした。日本で最初の「本格的な地下鉄」が開業したのは、1927年です。このとき、東京地下鉄道の浅草駅から上野駅間が開業しました。この路線は現在の東京メトロ銀座線にあたり、当時から現在と同じ配色の黄色い車両が走っていました。この後、大阪や名古屋など、各地に地下鉄の路線網が拡大していくことになります。

さて、ロンドンでの開業を皮切りに世界中へと広まった地下鉄という交通システムですが、なぜここまで急速に拡大したのでしょうか。ロンドンでは産業革命後、人口が急激に集中し、建物の密度も非常に高くなっていました。そのため、地上に鉄道を敷設することが難しい状況となり、地下空間を有効活用できる地下鉄というシステムが効率的だったのです。欧米や日本の他の大都市についても同様のことが言えるでしょう。特に東京のように、国家の人口の多くが集中し、道幅が狭く建物が密集しているような都市では、地下鉄は不可欠なインフラとなっていったわけです。

日本語の「地下鉄」という言葉は「地下鉄道」の略称であり、韓国語でも「地下鐵(チハチョル)」と表現します。日本では、東京を中心に地下鉄を「メトロ」とも呼びます。東京の場合は、東京メトロと都営地下鉄という2つの会社がそれぞれ地下鉄路線を運営しているため、前者を指して「メトロ」と呼ぶことが多いように思われます。また、最近では大阪市営地下鉄が民営化し、「Osaka Metro」と改称しました。この「メトロ」の語源は、世界初の地下鉄となったロンドンの「メトロポリタン線」です。パリの地下鉄はメトロポリタン線から名称をとり、「首都(メトロポリタン)鉄道Chemin de Fer Métropolitain」と名付けられました。これがフランス語で「Métro」と略されるようになり、世界中に「メトロ」という名称が広まったようです。ロシア語でも地下鉄は「メトロポリテンМетрополитен」と呼ばれ、「メトロМетро」と呼ぶことも一般的です。

地下鉄は意外にも明確に定義することが難しく、その定義に揺れがあります。①単に地下を走る鉄道や②大都市を通り「地下鉄」という名称で運行されている鉄道などの定義があります。基本的には、②を指して「地下鉄」と呼ばれることが多いようです。この定義に従うと、日本には、東京、大阪、名古屋、札幌、仙台、横浜、京都、神戸、福岡に地下鉄が走っていることになります。これらの都市はすべて政令指定都市以上の市なので、やはり地下鉄は人口が集中する大都市特有の交通機関なのだと言えるでしょう。路線の数を見てみると、東京:13路線、大阪:8路線、名古屋:6路線、札幌:3路線、仙台:2路線、横浜:3路線、京都2路線、神戸:4路線、福岡:3路線となっています。基本的には、都市の規模と路線の数が比例しています。

改めて日本の地下鉄の歴史を見てみると、上記の通り、日本初の地下鉄として東京地下鉄道浅草~上野間が開業したのが1927年でした。その後、1933年に大阪市営地下鉄御堂筋線が開業しましたが、その後第二次世界大戦の影響もあり、地下鉄の広まりは一時ストップします。終戦後の混乱が収まると、東京と大阪では地下鉄の建設が次々に進行し、現在に至るまで路線が拡大し続けています。東京と大阪以外の都市では、1957年に名古屋市営地下鉄東山線が、1971年に札幌市営地下鉄南北線が、1972年に横浜市営地下鉄ブルーラインが開業し、続いて神戸、京都、福岡、仙台などの各都市に地下鉄が建設されていきます。

世界の地下鉄にも触れておきましょう。上記の通り、地下鉄発祥の地はイギリスのロンドンで、ロンドンには11路線の地下鉄が存在します。イギリスではこの他に、グラスゴーとニューカッスルに地下鉄が走っています。隣国フランスのパリでは16路線の地下鉄が走り、リヨン、マルセイユ、リール、トゥルーズ、レンヌの各都市に地下鉄が存在しています。ドイツではさらに地下鉄建設が盛んで、ベルリン、ハンブルク、ミュンヘン、ニュルンベルク、フランクフルト、ケルン、ハノーファー、ボン、デュッセルドルフ、ビーレフェルト、ボーフム、ドルトムント、デュイスブルク、エッセン、シュトゥットガルト、ミュールハイムの各都市に地下鉄が走ります。英仏独というヨーロッパ主要国では、当然のように地下鉄の建設は盛んですね。また、ロシア革命後急速な工業化を果たしたソヴィエト連邦でも、地下鉄は多く建設されました。ロシアの首都モスクワには12路線の地下鉄が走ります。モスクワの地下鉄は、社会主義リアリズム様式で建設されており、駅のなかが絵画やシャンデリアなど、重厚なインテリアで飾られていることが特徴です。地下鉄駅というよりは、美術館のような雰囲気があります。ロシアではモスクワの他、サンクト・ペテルブルク、ニジニ・ノヴゴロド、ノヴォシビルスク、サマーラ、ヴォルゴグラード、エカテリンブルクに地下鉄が存在しています。英仏独露以外のヨーロッパの国では、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、チェコ、デンマーク、フィンランド、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、セルビア、スペイン、スウェーデン、スイス、ベラルーシ、ウクライナに地下鉄が走っています。

アメリカでも地下鉄は主要な交通機関となっており、世界的に有名なニューヨーク地下鉄はなんと33もの路線を抱えています。ニューヨーク以外の都市では、アトランタ、セントルイス、シアトル、ピッツバーグ、ロチェスター、バッファロー、ボルティモア、ボストン、シカゴ、クリーブランド、ロサンゼルス、フィラデルフィア、サンフランシスコ、ワリントンD.C.に地下鉄が走っています。北米大陸では、アメリカ以外にカナダ、メキシコ、プエルトリコ、パナマ、ドミニカ共和国に地下鉄が存在しています。

アジアで初めて地下鉄が開業したのは日本ですが、それに続いて台湾、香港、中国、韓国、北朝鮮、シンガポール、マレーシア、タイ、インド、イラン、ベトナムで地下鉄が開業しています。アジアの地下鉄は、政府開発援助など先進国による援助から建設されたものが多いことが特徴となっています。

上記の通り、世界各地の大都市に建設されている地下鉄ですが、これらの路線網は各都市の都市構造と密接に結びついています。東京やロンドン、モスクワなどの地下鉄路線網は「放射環状路線」(画像左)と呼ばれており、円形の環状線を中心に、その中を放射状の路線が通っています。このような都市では、円の中央を中心とし、放射線の交差点や円環の上に繁華街や商業地などが点在しています。一方、ベルリンやパリ、大阪などの地下鉄路線網は「複合格子路線」(画像右)と呼ばれており、各路線が格子状に配列されています。このような都市では、格子の中央のいくつかの点が都市の中心部となっていると考えられます。他にも地下鉄の路線網には「X路線」や「十字路線」など、いくつかの類型が見られます。このように、地下鉄の路線網はそれぞれの都市の構造と密接に結びついており、都市の構造を決定づける基盤のようになっていると考えることもできるでしょう。

以上のように、地下鉄は大都市の都市構造と密接な関わりを持ち、都会人の足として不可欠なインフラの1つとなっています。1995年の地下鉄サリン事件は、大都市で化学兵器が使用された初の無差別テロとして知られていますが、その現場として地下鉄が選ばれたのは、都市の生活が地下鉄を基盤としているからこそでしょう。モータリゼーションが進行し、都市におけるドーナツ化現象が叫ばれる現代ですが、一方で「都心回帰」という流れが始まっていることも指摘され、東京都心など大都市では例外的に地価の上昇が注目されています。このような状況下では、地下鉄の役割は増大し続け、さらなる路線網が拡大していくことも自然な流れだと考えられます。

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武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。