裁判傍聴のすすめ①

最近、「法廷もの」と呼ばれるドラマが再び人気を博しています。「法廷もの」の醍醐味は、弁護士や検察官、裁判官らが法律や証拠を使って裁判で争う姿そのものです。社会は法によって秩序を維持していますが、法を実現する場所が法廷であり、裁判なしに法治国家は実現しません。そのため、裁判はある意味社会の縮図とも言えるものです。だからこそ、裁判を題材とする「法廷もの」ドラマは人気になるわけですね。

一方、実際の裁判を目にしたことがある人というのは、社会のなかでは少数派なのではないかと思います。日本は伝統的に、訴訟を避ける風土があると言われています。憲法では国民が裁判を受ける権利が保障されているのですが、にもかかわらず、裁判で問題を解決しようという人はあまり多くありません。日本人の訴訟嫌いはデータにも表れていることで、アメリカやドイツ、フランス、イギリスなどの欧米先進国と比べて、日本で行われる裁判の数は少ないとされています。

裁判が少ないといっても、日本では毎日多くの裁判が行われています。そして、そのほとんどは「公開の法廷」で行われています。つまり、国民は裁判所で開かれている裁判を自由に見ることができます。裁判を見ることを一般的に「傍聴」と言いますね。本日は、この「裁判傍聴」について解説していきたいと思います。

裁判を公開の法廷で行うことは、憲法に規定されています。そのため、非公開の裁判というのは、公開すると支障が出る場合に限られ、例外的です。具体的な憲法での規定は次の通りです。「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない」。

なぜ裁判を公開する必要があるのでしょう。裁判というのは基本的に争いの場なので、それを公開するのは、なんとなく「見せしめ」のように思えてしまいます。けれど、それでも裁判を公開することには、重要な意味があります。裁判を密室で非公開に行った場合、どのような不正が行われるかわからないからです。裁判は公開の法廷で行われることによって、公正な手続きが担保されているわけです。

さて、いざ「裁判を見に行こう!」となったとき、どうすれば良いのでしょうか。とりあえず最寄りの裁判所に行きましょう。何も準備はいりません。持ち物はメモ帳とペンがあれば十分です。裁判傍聴に予約は必要ないので、思い立った時にいつでも行けるようになっています。裁判は、月曜日から金曜日のだいたい10:00から17:00くらいまで行われているので、この間に裁判所へ行きましょう。裁判所へ行くと、エントランスに「開廷表」というものが備え付けてあります。開廷表には、当日何時にどのような裁判が行われるのかが書かれています。開廷表は基本的に紙のファイルですが、東京地裁では検索等ができるタッチパネル式になっています。開廷表には裁判の開廷時間、事件名,被告人名,法廷の番号,審理の段階等が書かれているので、これをメモ帳にメモして、該当の法廷に行きます。

法廷には「傍聴人入口」と「検察官・弁護人入口」があるので、前者から入るようにしましょう。法廷に入ると座席が並んでいます。座席は自由席なので好きな位置に座れますが、満席の場合立ち見は禁止されているので、その裁判は見られません。開廷時間になると、裁判官が入ってきます。裁判所書記官が「ご起立ください」と言うので、立って一礼をすると、裁判がスタートします。裁判が始まったら、静かに傍聴しましょう。なお、傍聴は出入り自由なので、つまらなければ外へ出ることも、他の法廷へ行くことも自由です。一連の手続きが終わり閉廷すると、また起立を促されるので、また一例をして裁判は終わりです。

裁判傍聴の流れは以上のようなものです。基本的に傍聴は特に準備も要らず自由にできるので、特に気負わずに見ることができます。次に、どの裁判所でどのような裁判を見たら良いのか、書いておきましょう。

まず、裁判所は大きく、最高裁判所(最高裁)と下級裁判所に分類されています。下級裁判所には、高等裁判所(高裁)、地方裁判所(地裁)、簡易裁判所、家庭裁判所という種類があります。日本では「三審制」といって、1つの事件につき3回裁判を受けることができます。1審、2審、3審と良く言いますが、裁判所も判断を誤ることがあるので、判決に不服があれば控訴(または上告)することによって、3回目まで裁判を受けられるシステムになっているのです。基本的に1審は地裁、2審は高裁、3審は最高裁で行われるのがスタンダードなパターンです。初めて傍聴する際には、地裁がおすすめです。というのも、2審や3審の裁判は1審での流れを知らなければ分かりづらいためです。

さて、周知の通り、裁判には民事裁判と刑事裁判が存在します。民事裁判とは、個人と個人の紛争を解決するために、民法や民事訴訟法といった法律に基づいて行われる裁判です。一方、刑事裁判とは、犯罪者を国家が裁くために刑法や刑事訴訟法に基づいて行われる裁判です。初めて傍聴する裁判としては、どちらかというと刑事裁判がおすすめです。というのも、ドラマや映画などで取り上げられる裁判はほとんどが刑事裁判ですし、事件の内容や手続きの進め方も刑事の方が分かりやすいためです。刑事裁判では、公訴を提起した検察官、被告の味方である弁護士、そして公平な判断を行う裁判官という法曹三者が三面的に手続きを行います。一方、民事裁判では、原告(原告代理人弁護士)と被告(被告代理人弁護士)が対峙しますが、内容的にも手続き的にも分かりづらいものが多く、初心者にはあまりおすすめできません。

以上のように、初めて裁判を傍聴する場合は、地裁での刑事裁判がおすすめです。刑事事件のなかには当然ながら凶悪犯罪も含まれており、そのような事件を傍聴するとそれなりに精神的にダメージを受けることもあります。開廷表には事件名が記載されていますので、なるべく深刻度が低く、内容が分かりやすそうな事件を選ぶのがコツだと思います。地裁刑事になれてきたら、民事や高裁刑事の傍聴にも挑戦してみると良いでしょう。

本日は傍聴のすすめ、ということで、裁判傍聴の流れについて書いてきました。思いのほか、裁判は簡単に傍聴できてしまうのです。なんといっても、これは憲法で保障されたことだからです。「簡単に」といっても、それは「気軽に」見られるという意味ではありません。裁判で審理されるのは実際に起きた事件であり、上記の通り、そのなかにはかなり深刻な事件も存在します。日本は死刑存置国なので、当然ながら死刑判決が下される可能性もあります。内容は非常に深刻であるのも関わらず、簡単に傍聴できるように保障されていることには、やはり社会的に大きな意味があるのです。裁判を傍聴して感じることは人それぞれだと思いますが、事件というのは決してドラマや映画のなかだけで起きているわけではないということ、時には自分もその当事者になる可能性があるということを痛感させてくれるのが裁判傍聴なのです。実は、裁判が日本ほど自由に傍聴できない国も世界にはあるようです。せっかく保障された権利なのですから、時間を見つけて裁判傍聴に出かけてみてはいかがでしょうか。

ABOUTこの記事をかいた人

武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。