世界の大学事情①韓国・台湾

これまでにも日本国内の大学や非英語圏の大学など、高等教育に関する記事を書いてきました。特に、非英語圏の大学について解説してきた目的としては、どうしても英語圏に目が行きがちな日本社会の現状に疑問を呈したかった、ということがあります。他の記事でも主張してきたように、グローバル化=英語化・アメリカ化ではありませんし、これから多言語主義・多文化主義は国際社会における優先度を上げていくことになるだろうと思われます。そういう状況のなかでは、非英語圏の大学への留学需要も高まってくると考えられます。実際、非英語圏の大学へ入学する人は増えていますし、日本の大学も非英語圏の大学の留学枠を拡大しつつあります。

非英語圏の大学へ留学するにあたっては、当然留学先地域の高等教育事情を把握しておく必要があります。社会において大学がどのような地位を占めているのか、またどの大学のレベルが高いのかなど、大学にまつわる事情は国や地域によってさまざまです。ということで、こちらでは非英語圏の各国における大学事情を解説していけたらと思っています。具体的なくくりとしては、EU圏、ロシア・CIS圏、中国、韓国、台湾などが、非英語圏のなかで日本人の留学需要が高い地域かと思われます。そのなかでも本日は、歴史的に日本との関わりが深く、教育システムに日本との共通性が見られる韓国と台湾の大学事情について書いてみたいと思います。

まずは韓国の大学事情についてです。周知の通り、韓国は日本を凌ぐ壮絶な学歴社会であると言われています。2018年の韓国の大学進学率は約70%。10年前は80%を超えているときもありました。一方、2018年の日本の大学進学率は過去最高で57.9%でした。日本では大学を卒業せずに就職するルートが存在していますが、韓国の場合は高等教育を受けなければ就職が難しいことが、進学率にも表れています。さらに、韓国では海外留学が一般的であり、高い英語力がなければ就職も難しくなります。「TOEIC800じゃ韓国では戦えない」と言う人もいるほどです(TOEICの点数で英語力を測るのもいい加減やめた方がいいと思いますけど)。

上記のように日本以上の学歴社会である韓国ですが、名門大学の卒業生がエリートと見なされる点では日本と似ています。一方、日本との相違点として挙げられるのは、名門大学の定義です。韓国では、「ソウルにある大学がとにかくえらい」という観念が存在しているようです。韓国にも地方国立大などは多く存在しているのですが、国公私立を問わず、ソウルに立地する大学が名門とされています。日本では東京にあるからといって名門とは限らず、むしろ旧7帝大のように各地方に名門大学が配置されている点が異なります。韓国は日本以上に首都への一極集中が激しく、このような状況になっているのかもしれません。

さて、韓国を代表する名門大学として知られるのが、ソウルに立地し「SKY」という略称で知られる3つの大学です。Sはソウル大学校、Kは高麗(コリョ)大学校、Yは延世(ヨンセ)大学校を指します。ソウル大学校は日本でも有名ですが、「韓国の東京大学」と呼ばれる韓国一の大学です。日本統治時代の1924年、京城府に京城帝国大学が設立されました。ソウル大学校は京城帝国大学の施設等を受け継いで新たに設立された大学です。よって、旧帝大には含まれないのですが、歴史的には関連性があります。

高麗大学校は「韓国の早稲田」とも言われる名門私立大学です。実際に早稲田大学とは姉妹校の関係にあり、交流試合やシンポジウムなど、高麗と早稲田は親密な関係にあります。高麗大学校のコーポレートカラーが早稲田と同じ色(えんじ)であることも、偶然ではないのでしょう。高麗大学校のキャンパスは白い石造りで非常に美しいものとなっています(トップ画像参照)。早稲田大学のキャンパスは茶色を基調としているので、キャンパスの雰囲気は少し違うかもしれません。高麗大学校の学生は「飲み方が激しい」ということでも有名で、この点もバンカラで激しい飲み方を好む早稲田と非常に良く似ています。

延世大学校は「韓国の慶應義塾」と呼ばれる名門私立大学です。こちらも慶應とは実際に姉妹校の関係にあるようです。キリスト教系のスマートな校風を特徴とする大学として知られています。この点でも、慶應ボーイに代表される慶應の校風と似通った部分があります。東日本大震災の時には、延世から慶應へ義援金が贈られたほど親密な関係にあるようです。高麗と延世の間には「高延戦」と呼ばれるスポーツの試合があり、日本における「早慶戦」と同じく激しい対抗意識を持っていえるようです。

サムスンやLG等を抱える工業立国として知られる韓国では、SKYに代表されるソウルの大学(梨花女子、成均館、漢陽、西江、慶熙、韓国外国語etc)の他、KAISTや浦項工科大学校(POSTECH)のような工業系大学もソウル大学校に並ぶ名門として知られているようです。

台湾もまた、韓国と同じく大日本帝国の統治を受け、日本と似た教育システムを持つ国の一つです。台湾の教育機関は、韓国ほど顕著な首都一極集中が見られず、主に国立大学が名門として知られています。中でも、台湾を代表する名門大学として名高いのが国立台湾大学です。

台湾大学は、日本統治時代の1928年に創設された台北帝国大学を直接の母体とする大学です。施設等だけでなく、大学そのものも台北帝国大学を引き継いでいることから、「旧帝国大学」の一つと呼ぶことも可能です。この意味で、京城帝国大学と断絶しているソウル大学校とは対照的な歴史を持つ大学です。歴代の中華民国総督を輩出するなど、台湾では圧倒的にステータスの高い大学とされています。「台湾には早慶に相当する大学がない」とされており、日本では早慶や地方旧帝大が東大京大を、韓国では高麗大と延世大がソウル大を補完し追いかけるような関係にありますが、台湾にはそのような大学はないようです。台湾大学以外では、国立清華大学、国立交通大学、国立政治大学など台北周辺の大学のほか、国立成功大学や国立中山大学など南部の大学も名門として知られています。

本日は、韓国と台湾の大学について、主に大学事情と名門大学という観点から書いてみました。社会における大学の地位、大学のレベルについての考え方は国によってさまざまです。必ずしも日本における大学にまつわる常識が世界各国で通用するわけではありません。ただ、歴史的に日本と深い関係にある韓国や台湾に関して言えば、高等教育についての常識も少なからず似通っている部分があるのではないでしょうか。特に韓国は受験戦争や学歴社会など(日本よりはるかに苛烈ですが)、大学を取り巻く社会情勢には類似した部分が見受けられます。「ソウルの大学がえらい」という感覚は日本人には理解し辛い部分ですが、ソウル大(≒東大)、高麗(≒早稲田)、延世(≒慶應)という3校の関連性は日本に近い部分ですね。日本と違うのは、東大以外の旧帝大のような存在がないことでしょうか。

台湾の大学事情について言えば、韓国よりも日本との相違点が目立つ部分はあります。特に、日本の早慶や韓国の高延のような私立名門大学が不在であることが大きな特徴ですね。しかし、国立台湾大学が大日本帝国の教育機関である台北帝国大を引き継いでいることなど、日本統治時代との連続性を感じる教育システムは台湾ならではと言えるでしょう。

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武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。