ヨーロッパの国家③スカンディナビア諸国(デンマーク・スウェーデン・ノルウェー)

これまでブログでは、東西ヨーロッパに関する記事を書いてきました。また、北欧のフィンランドに関しても、ウラル語族との関連から取り上げました。この流れで、他の北欧諸国についても書いてみたいと思います。「他の」と書きましたが、いわゆる北欧諸国に含まれる5ヶ国(デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・フィンランド・アイスランド)のうち、フィンランドはすでに取り上げられており、アイスランドは少し異質なため、デンマーク・スウェーデン・ノルウェーの3ヶ国をテーマとします。

デンマーク・スウェーデン・ノルウェーは、フィンランドと並び日本では「先進的な国」、「成功国家」、「幸せな国」といったイメージを持たれている国々です。また、北欧全体に言えることではありますが、経済的に非常に豊かな国々であることも事実です。スウェーデンやノルウェーが位置するヨーロッパ北部の半島を「スカンディナビア半島」と呼びます。そして、スカンディナビア半島周辺に位置するデンマーク・スウェーデン・ノルウェーのことを、「スカンディナビア三王国」とも呼びます。さらっと「三王国」と書きましたが、これらの3ヶ国はそれぞれ国王を戴く立憲君主制国家です。スペインやオランダなど、ヨーロッパには王国が多く存在していますが、スカンディナビア三王国は立憲君主制を採用している点において、同じ北欧にありながら共和制を採用するフィンランドやアイスランドとは区別されます。

上記のように、デンマーク・スウェーデン・ノルウェーは北欧の国々のなかでも特に強い結び付きを持っています。例えば、3国のナショナルフラッグキャリア(メインの航空会社)はスカンディナビア航空ですが、この会社は3国が共同で出資、運営しています。ナショナルフラッグキャリアといえば、日本の日本航空、韓国の大韓航空のように、それぞれの国によって運営されるのが基本なので、スカンディナビア航空は珍しい例です。

スカンディナビア三王国の共通点は、もちろん航空会社だけではありません。スウェーデンの公用語はスウェーデン語、デンマークの公用語はデンマーク語、ノルウェーの公用語はノルウェー語ですが、これら3言語はすべてゲルマン語派の北ゲルマン語群に含まれ、互いに強い近似性を持つ言語です。そのため、スウェーデン語、デンマーク語、ノルウェー語はそれぞれ通訳なしで意思疎通できるとも言われています。なお、ノルウェー語にはさまざまな方言があり、ブークモールとニーノシュクという2つの標準語が存在しています。このうち、多数派が使用しているのはブークモールで、ニーノシュクよりもデンマーク語に近い関係にあるとされています。

言語的にも民族にも近い関係にあるスカンディナビア三王国ですが、歴史的にはスウェーデンとデンマークが大国として競合し、そのどちらかにノルウェーが支配されるという経緯を辿ってきました。しかし、19世紀になるとナショナリズムの時代が来て、スカンディナビアは統合の道へと進みます。このような動きを「汎スカンディナビア主義」と呼び、同時代に起こったドイツ中心の「汎ゲルマン主義」やロシア中心の「汎スラヴ主義」と比較されることが多いです。結局のところ、スカンディナビアは統一国家になることがないままに、第一次世界大戦、第二次世界大戦を迎えることになりました。第二次世界大戦中、北欧はナチスとソ連の侵攻を受けますが、各国は最終的に独立を守りました。大戦後の冷戦体制においては、スカンディナビア諸国とフィンランドはアメリカとソ連に対してそれぞれ違う態度を示し、お互いが異なる政策を取ることによって東西陣営のなかでバランスを保ちました。これを「ノルディックバランス」と呼び、アメリカよりのデンマーク・ノルウェー、中立のスウェーデン、ソ連よりのフィンランドという構成だったと言われています。その後冷戦後終結すると、ヨーロッパはEU(ヨーロッパ連合)を中心に統合へと向かっていきます。

デンマークはEU発足時の加盟国、スウェーデンは1995年からの加盟国です。一方、ノルウェーはEUに加盟することなく独立を保っており、EU諸国に囲まれながら加盟を拒否している点でスイスに近い状態にあります。EUの共通通貨はユーロですが、デンマーク・スウェーデン・ノルウェーともにユーロを導入していません。3ヶ国はともにかつて北中欧の共通通貨であったクローネ(スウェーデンではクローナ)を通貨としています。デンマークとスウェーデンでは、ユーロ導入に関する国民投票が実施されたものの、否決されています。

スカンディナビア三国は、北欧の国際組織である「北欧理事会」加盟国です。北欧理事会の加盟国は、スカンディナビア三国に加え、フィンランド、アイスランド、グリーンランド(デンマークの自治領)、フェロー諸島(デンマークの自治領)、オーランド諸島(フィンランドの自治領)となっています。このうち、グリーンランド以外の国々は、鮮やかな十字の意匠を持つ似た形式の国旗を有しています。北欧諸国の国旗に共通する十字のデザインは、「スカンディナビア十字」と呼ばれ、キリスト教国である北欧諸国に一体感をもたらしています。

ノルディックモデルと呼ばれる高福祉高負担国家として理想的な国家とも考えられているスカンディナビア三国ですが、最近ではその状況にも陰りが見えつつあります。スウェーデンやデンマークは国外の巨大資本や機関投資家の影響を受けやすいと言われており、リーマン・ショック等では大打撃を受けています。さらに、これらの国々は積極的な移民受け入れ政策を行ってきましたが、移民の人口は急激に増大し、さらに適切な制度運営に失敗したため、治安の悪化に繋がりました。スウェーデンは現在でも移民大国として知られており、今後の動向が注目されます。一方デンマークでは右派が台頭し、移民の入国は厳しく制限されることになりました。現在では、世界でもまれに見る厳格な移民法が存在する国となってしまいました。ノルウェーについても触れておきますが、ノルウェーはスウェーデンとデンマークに似た制度を持ちながら、油田を所有する産油国である点で独自性もあります。この恩恵もあって、ノルウェーはルクセンブルクやスイスなどともに、一人当たりのGDPランキングでは世界1位を争う国の一つとなっています。しかしノルウェーにおいても移民問題は影を落としており、2011年には「ノルウェー連続テロ事件」が起きています。同事件では、反イスラーム思想を持つ容疑者が世界最大規模の殺人犯となりました。

上記のように、日本で単純に考えられているようなおとぎ話の「楽園」ではなくなりつつあるスカンディナビア諸国ですが、やはり成熟した議会制民主主義、社会民主主義的政策を実行する先進的な国家として、参考になるべき点も多いとは思います。アメリカ追従型の新自由主義の台頭によって格差が拡がりつつある日本社会においては、さまざまな問題があるにしても、スカンディナビア諸国を「楽園」のように捉えてしまうのは無理からぬことかもしれません。北欧を正しい意味で参考とするために重要なのは、現地で起こっている問題を捨象せず、ネガティブな情報も含めて精査していくことでしょう。個人的には、情報を精査する鍵となるのはやはり現地語の習得なのかな、と考えています。

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武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。