ノーベル賞とその意義について①

先日、某国の首相がアメリカのトランプ大統領をノーベル平和賞に推薦したとかしないとか、話題となっていました。この発言の事実認定や是非といった問題はマスコミに任せておけば良いと思います。興味深いのは「ノーベル平和賞」というキーワードに多くの人々が敏感な反応を示す点です。もう一つ例を挙げましょう。最近ではあきらめムードになりつつありますが、毎年ノーベル賞の授賞者が発表される時期になると、「村上春樹のノーベル文学賞受賞」が騒がれています。それほどまでに「ノーベル賞」という賞は世界的に圧倒的な知名度、権威を誇り、注目を集めているのです。しかし実際のところ、この賞にはどのような意義があるのでしょうか。本日は、ノーベル賞について書いてみたいと思います。

ノーベル賞は、ダイナマイトの発明で知られるスウェーデンの発明家アルフレッド・ノーベルの遺言によって、1901年から始まった賞です。ノーベル賞には、ノーベル物理学賞、ノーベル化学賞、ノーベル生理学・医学賞、ノーベル文学賞、ノーベル平和賞という5つの分野が存在します。この5分野が、ノーベルさんの遺言に従って設立された由緒正しき賞とされます。また、ノーベル経済学賞という賞も存在しますが、こちらはノーベルさんの遺言とは関係なく1968年に設立された賞で、正式名称は「アルフレッド・ノーベル記念スウェーデン国立銀行経済学賞」となっています。ノーベル財団はノーベル経済学賞の存在を認めていないため、こちらは「ノーベル経済学賞」は通称です。ノーベル賞受賞者はメダルと賞金(現在約8,900万円)を受け取ることができます。

選考は「物理学賞」、「化学賞」、「経済学賞」がスウェーデン王立アカデミーで、「生理学・医学賞」がカロリンスカ研究所で、「文学賞」がスウェーデン・アカデミーで行われます。「平和賞」の選考はノルウェー・ノーベル委員会で行われます。平和賞の選考のみがノルウェーで、それ以外の選考はスウェーデンで行われるということです。平和賞のみノルウェーでの選考となっているのはノーベルの遺言によるものですが、理由には諸説あるようです。

ノーベル賞にはさまざまな批判が寄せられています。「物理学賞」、「化学賞」、「生理学・医学賞」については、研究の先後や実際に貢献した人が受賞できていないなどの問題が提起されています。しかし、比較的客観的な事実認定が可能な自然科学分野においては、このような苦情はそれほど多くないようです。

多くの問題があるのは文学賞や平和賞など、選考に主観が入りがちな分野でしょう。文学賞については、選考者がヨーロッパ中心主義であること、特定の国が冷遇されていること、政治的理由があることなどが批判されています。ロシアのトルストイやチェーホフといった世界的な作家がノーベル文学賞を受賞しなかったことには、スウェーデンの反ロシア的感情が反映されているという指摘もあります。日本人で過去に文学賞を受賞した作家には川端康成と大江健三郎が存在しますが、たしかに谷崎潤一郎、永井荷風、太宰治、三島由紀夫、安部公房などが受賞しなかった賞をなぜこの二人が、という感覚は抱きます。ただ、文学賞の選考において主観を排除するのはほぼ不可能ですし、ヨーロッパ好みのする日本作家が受賞したと考えるとある程度納得は行きます。

平和賞は政治とダイレクトに関わる分野であり、よりセンシティブな問題が提起されます。かつて平和賞を受賞したことによって論争になった人物として、アウンサンスーチー、ダライラマ14世、ミハイル・ゴルバチョフなどがいますね。2010年ノーベル賞平和賞受賞者は中国の劉暁波でしたが、彼の受賞時に中国はノルウェーに対し圧力をかけました。彼はノーベル賞受賞時すでに中国政府に投獄されており、2017年に死去するまで解放されることはありませんでした。このように、平和賞は過去には西側と東側との、現在では西側と中国との政治の道具となっている側面もあります。

と、さまざまな問題があるわけですが、やはり一番の問題は、ノーベルさんという個人の遺産と遺言によって運営されている私的性格の強い賞が、ここまで世界的な地位を獲得してしまったことではないかと、個人的には考えます。学問は権威によってのみ支えられるべきではないですし、学問の最終的な目的は真理の探究ではないでしょうか。この意味で賞は学問とは性格的になじまない部分があると思います。そして、ノーベル賞をここまで高い地位にのし上げたのは世界大衆の民意であることを考えると、私たちに求められるのは、ノーベル賞をみだりに担ぎ上げないことではないかと思います。ノーベル賞を受賞しない科学者や文学者にも、人類の未来に貢献する仕事をしている人々は多く存在します。ノーベル賞という権威の影に隠れてしまう、そういう人々の仕事を、いかに社会に向けて照らし出してゆくかが課題ではないでしょうか。

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武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。