同性婚訴訟と世界における同性婚①

2月14日、同性婚を認めないのは、憲法が保障する「婚姻の自由」や「法の下の平等」に反するとして、国に対する損害賠償を求め全国で一斉に訴訟が提起されました。この訴訟は、日本の憲法の制度という点で非常に興味深い事例です。このニュースを見て、「正直、訴えられても役所の職員は困るだけでは?」と思う方も多いでしょう。この訴訟における原告側の目的は、最終的には「裁判所に同性婚に関する憲法判断を仰ぐ」ということで、別に役所に金を払えと言っているわけではありません。最高裁判所が、日本で同性婚が認められていない事実を違憲状態だと判断すれば、同性婚に関する立法をする必要がでてきます。そして、最終的に日本でも同性婚が認められることになるでしょう。原告が目指しているのはこういうシナリオだと考えられます。

ではなぜ最初から憲法に関する判断を請求しないのか?実は日本の法制度において、裁判所にいきなり「○○は憲法違反ですか?」と質問することはできないのです。この事例の場合、「同性婚が日本で認められていないのは憲法14条違反ではありませんか?」と裁判所に聞くことはできません。このような「○○は憲法違反ですか?」という質問に裁判所が回答する制度を「抽象的違憲審査」と言います。ドイツ、イタリア、オーストリアといった大陸ヨーロッパの国々では、この抽象的違憲審査制が運用されています。日本では憲法81条によって違憲審査制が定められていますが、81条は抽象的違憲審査制ではなく、「付随的違憲審査制」を指しているとされています。付随的違憲審査制とは、個人の権利保護を第一の目的として、具体的な事件に関する争訟に際して、裁判所が違憲審査を行うシステムです。付随的違憲審査制は主にアメリカで運用されており、日本国憲法もアメリカ型の憲法なので、同じような制度となっているわけです。

上記のように、日本の司法では抽象的違憲審査制ではなく付随的違憲審査制が採用されているため、具体的な事件が起こり、その事件に関する訴訟が提起されない限り、ある事実が違憲なのかどうかの判断を裁判所に請求することができません。同性婚訴訟においては、全国で同性婚をしたい人たちが役所に婚姻届を出したが、その婚姻届が受理できなかった、というのが事件にあたります。そして、この事件の原因は国が同性婚に関する法律を整備していない「立法不作為」によって起こったものであり、この立法不作為により国民の人権が侵害されている。そのため国に対する損害賠償を請求する。という流れで原告が訴訟を提起したのです。人権侵害を憲法違反として訴えているので、最終的には最高裁は立法不作為が違憲なのかどうか判断することになります。

具体的な条文としては、憲法13条「幸福追求権」、14条「法の下の平等」、24条「婚姻の自由」などがこの裁判における争点となっています。これらの条文は憲法第3章「国民の権利及び義務」に含まれており、基本的人権に関する規定として憲法ではもっとも重要な箇所です。事件としてはあくまで同性婚に関する問題ですが、憲法の人権に関する規定は全国民に関わってくる部分であり、これらの条文について最高裁がどのような解釈を判示するのかは非常に重要です。というのも、最高裁の判例は法律に準ずる拘束力があるので、この裁判の判決は今後の別の事件の裁判にも影響を与える可能性が強いのです。同性婚訴訟が注目されているのは、もちろんLGBTの権利に対する関心が高まっているからではありますが、この裁判の判決が今後の全国民の人権保障にも関わってくるからでもあるでしょう。

さて、日本では現状同性婚は認められていないわけですが、世界ではすでに多くの国々で同性婚に関する法律が存在しています。しかし、同性婚に関する各国の態度は一様ではなく、かなり多様性があります。そこで、以下では地域別に世界の同性婚の状況について書いてみたいと思います。

同性婚に関する立法は、主に欧米の先進国を中心に推進されてきました。同性婚と一口にいってもその制度は多様です。大きくわけると、①性別に関係なく婚姻を認めることで実質的な同性婚を可能とする国、そして②異性婚と同様の権利を一部または全部を同性婚にも認めるため特別な制度(パートナーシップ等)を作る国の2種類が存在します。また逆に、同性愛自体を違法としたり、同性愛に関する宣伝を禁止したりする国もあります。

世界で初めて性別に関係ない婚姻を可能とした国はオランダです。オランダは2000年に法律を制定し、同性同士でも異性同士と同様な結婚が可能となりました。続いて、ヨーロッパではベルギー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン、ポルトガル、アイスランド、デンマーク、フランス、イギリス、ルクセンブルク、フィンランド、グリーンランド、マルタ、ドイツで同性婚が可能となっています。

アメリカ大陸では、北米のカナダ、アメリカ合衆国、メキシコ、南米のアルゼンチン、ウルグアイ、ブラジル、コロンビアで同性婚が可能となっています。ただ、カトリックの勢力の強いブラジルなどでは、婚姻届けを受理しない役所が存在するなど、運用面での不安が存在します。

アフリカでは南アフリカ共和国だけが同性婚を認めています。アジア・太平洋地域では、オーストラリアとニュージーランドで同性婚が可能です。また、台湾では2019年5月に同性婚の法律が施行されることになっています。

パートナーシップがある国としては、ヨーロッパのイタリア、アンドラ、スロベニア、チェコ、ハンガリー、オーストリア、リヒテンシュタイン、クロアチア、キプロス、ギリシャ、エストニア、南米のエクアドル、チリなどがあります。

大まかにまとめると、ヨーロッパのEUやイギリスの旧植民地であるコモンウェルス(カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)を中心に同性婚が可能とされてきています。すでに同性婚が可能となっている国でも、あえてパートナーシップを結ぶ選択肢が残されている場合があります。例えばフランスでは「民事連帯契約」と呼ばれる法的関係が存在します。民事連帯契約は「同性または異性の成人2名による、共同生活を結ぶために締結される契約」と規定されており、婚姻よりも緩やかな関係でありながら、婚姻に準じた権利を享受することができる制度です。民事連帯契約は同性カップルに限らず、異性カップルのあいだでもポピュラーな制度となっています。

現在日本は、G7のうち同性婚もパートナーシップ制度も存在しない唯一の国家となっており、今後の動向が注目されています。同性婚やパートナーシップに関する立法はなされていないものの、自治体レベルでのパートナーシップ制度が盛んとなってきているのは事実ですね。現在パートナーシップ制度を導入している自治体は、東京都渋谷区・世田谷区・中野区、北海道札幌市、福岡県福岡市、大阪府大阪市、三重県伊賀市、兵庫県宝塚市、沖縄県那覇市、群馬県大泉市、千葉県千葉市があります。さらに、東京都府中市、神奈川県横須賀市、岐阜県飛騨市、大阪府堺市、熊本県熊本市が今年4月から制度運用開始予定です。渋谷区の制度においては、区営住宅への同性カップル入居が認められるなど、一定の事実的な効力があります。自治体のパートナーシップ制度は法的拘束力を持ちませんが、今後仮に同性婚が法制化された際、行政側の運用のモデルにはなると考えられますね。

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武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。