類人猿について①

最近、マネジメントの分野で「類人猿分類法」なる言葉を耳にします。会社の人材の性質などをゴリラやチンパンジーといった類人猿に当てはめて考える方法のことですね。これは血液型占いのようなものなので、当然科学的根拠もなく眉唾臭い考え方だと思いますが、類人猿の性格の差異を人間の性質に当てはめようという発想はユニークです。個人的に注目に値すると思うのは、人間の社会の根源を類人猿の社会に求める考え方が大衆にも広まりつつあるという点ですね。実際、類人猿の性質やその社会のあり方は、テレビやマスコミを通じて広く大衆の関心を集めてきました。

類人猿はゴリラやチンパンジーなど種によって社会のあり方が異なっており、これらを人間社会と比較するということは古くから行われてきました。そして、類人猿の社会と人間の社会の類似性や差異などが指摘されるようになり、「類人猿分類法」のようなアイデアにもつながってきているのでしょう。「類人猿分類法」では「ゴリラタイプ=平和主義者・秩序を守る」、「チンパンジー=勝利が大事・リーダーシップをとる」など、かなり安直に人間の性格を分類してしまう点で危険性があると思います。ところで、類人猿の性質は種によって異なると書きましたが、実際どのように異なっているのでしょうか。そんな疑問から本日は類似念について書いてみたいと思います。

「類人猿」とは文字通り、「人に似た猿」を指す言葉ですが、実際どのような猿が類人猿に含まれるのでしょうか。類人猿は生物学的な用語ではありませんが、高い知能を持つ猿を総称する言葉として使われています。一般的に、霊長目(サル目)の種のうち、ヒト上科に含まれる種を類人猿と呼びます。ヒト上科にはヒト科とテナガザル科が含まれます。ヒト科に含まれる種類としては、チンパンジー・ゴリラ・オランウータン、ボノボ、そしてヒト(人間)が存在します。テナガザル科に含まれる種としては、シロテテナガザルやフクロテナガザルなどが存在します。ヒト科の類人猿は大型類人猿、テナガザル科の類人猿は小型類人猿と呼ばれています。大型類人猿のうち、チンパンジー・ゴリラ・オランウータンはアフリカに生息するためアフリカ類人猿と呼ばれ、オランウータンは東南アジアに生息するためアジア類人猿と呼ばれます。動物分類学には諸説あるのでこれが必ず正しいというわけではありませんが、おおむね類人猿の定義は上記のようなものです。

類人猿はそれぞれ見た目が似ていても正確に大きな違いがあります。もっとも一般的な類人猿であり、人間に近い類人猿の1種として知られるチンパンジーは非常に攻撃的で気性が荒いことで知られています。チンパンジーは同種のあいだでも殺し合いを行い、子殺しの習性を持つことが有名です。また、アメリカの富豪などではチンパンジーを飼育している人も多いようですが、チンパンジーは攻撃的な性格から飼育には向いておらず、飼育者が体を噛み千切られるなどの事件も頻発しています。人間より小さいチンパンジーですが、非常に筋肉が発達しており、攻撃力も高いので危険性があります。

チンパンジーに似た姿の類人猿として有名なのがボノボです。ボノボは「ピグミーチンパンジー」とも呼ばれ、チンパンジーに非常に似ているものの、性格には大きな違いがあります。ボノボはチンパンジーのような争いを好まず、同種間での殺し合いを行うこともありません。ボノボは知能も非常に高く、アメリカなどではボノボの研究が盛んです。特に有名なボノボとして挙げられるのがカンジとパンバニーシャというアメリカで飼育されている個体で、マッチで火をつけるなど道具を使えるだけでなく、英語を理解することもできると言われています。

チンパンジーと同じく有名な類人猿として挙げられるのがゴリラでしょう。ゴリラは非常に大きな体をしていますが、見かけによらず温和な性格だと言われています。また、非常に警戒心が強く、ストレスにも弱いようです。食生活では植物食の傾向が強いとされています。このように、見かけによらず優しい性格をしているところから、ゴリラは「平和主義」というイメージも定着しつつあります。ゴリラもチンパンジーやボノボと並び知能が高いことで有名です。有名なゴリラとしてはアメリカで研究されていたココという個体が挙げられます。ココは手話で人間と会話できるゴリラとして注目を集めており、「死」という概念について人間に説明したり、ジョークを言ったりしたとされています。しかし、ココに関する研究にはその方法が科学的ではなく恣意的な解釈がなされているという指摘が、言語学者などによりなされています。たしかにゴリラが人間と会話できるならとても興味深いことですが、飼い主が犬の気持ちを察するように、なんとなく「理解した」気になってしまっていたという可能性も考えられるでしょう。

オランウータンは、唯一アジアに生息する大型類人猿です。オランウータンはチンパンジー、ボノボ、ゴリラといった他の類人猿と異なり、基本的に群れを作らずに単独行動することで知られています。食性は雑食で、果実や昆虫を食べるようです。オランウータンにはスマトラ・オランウータンとボルネオ・オランウータンの2種類がいるとされていましたが、2017年には新種となるタパヌリ・オランウータンが発見されました。タパヌリ・オランウータンは世界でも800頭しか生息しておらず、絶滅が危惧されています。オランウータンもチンパンジー、ボノボ、ゴリラと同じく、人間に近い高い知能を持っていると言われています。

類人猿について、知能が人間の子供並みに高いことから「人権を認められるのではないか」という議論がなされています。アメリカではチンパンジーなどの類人猿に人権を認めようという運動が盛んに行われていますが、現状ではアメリカの裁判所はそのような趣旨の判決は下していません。一方、南米のアルゼンチンでは動物園に「監禁」されているオランウータンに権利能力を認め、実質的には類人猿の「人権」が認められるようになっています。類人猿に人権が認められるとなると、法律業界のみならず動物学の世界にも大きな影響がでるため、今後の動向に注目する必要がありそうです。上記のとおり、本当に類人猿が人間の言語を理解し、言語によるコミュニケーションが可能なのだとしたら、類人猿による権利の主張も可能になるのではないでしょうか。

ただ、インドではイルカにさえ実質的に人権が認められるなど、国によって動物の権利に対する認識はさまざまなようです。インドやアルゼンチンといった中進国ではなく、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本などといった先進国の裁判所が類人猿や動物に関する判決を出すまでは、彼らに人権が認められるかどうかは微妙でしょう。

本日は「類人猿分類法」にはじまり、類人猿の定義や種類について書いてみました。すでに人間との比較という点で大きな注目を集め続けている類人猿ですが、「類人猿の権利」という文脈ではさらなる注目が集まることになりそうです。人間と類人猿の類似性が証明されればされるほど、類人猿にも「人権」を認めるべきだという主張は強まってくるのではないでしょうか。そうなってくると、今我々が普通に目にしている動物園における類人猿の「展示」も変革を迫られることになるでしょう。

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武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。