ミニ国家について①

こちらのブログでは、さまざまな国家について扱ってきました。一口に国家といってもその形態はさまざまであることが改めて分かってきたように思います。とはいえ、これまで扱ってきた国々の多くは比較的大きな領土を支配し、多くの国民を抱える主要な国家でした。一方、実質的に国家としての性質を備えているにも関わらずさまざまな事情によって国際的承認を得られていない国として、「事実上独立した地域(未承認国家)」についてもすでに扱いましたね。世界にはまだまだ多くの国家が存在していますが、そのなかにはとても小さな領土や人口を持ちながらも国際的に国家として承認されており、国家の要件を完全に満たしているものがあります。このような国家を「ミニ国家Microstate, ministate」と呼びます。ミニ国家は傾向としてはヨーロッパや太平洋・カリブの島々に多く存在しています。本日は、このミニ国家の概要について書いていきたいと思います。

ミニ国家は国連の報告によれば「領土の面積、人口、人的・経済的資源において例外的に小さい実在体」と定義されています。「事実上独立した地域(未承認国家)」も領土や人口が小さい傾向にありますが、「事実上独立した地域(未承認国家)」が対外的な国家主権を有しておらず、国際的承認も得られていない(あるいは一部からしか得られていない)のに対し、ミニ国家はこれら国家としての要件を備えています。国家の分類の方法としては、「先進国」、「後進国」、「発展途上国」といった概念も知られています。しかし、これらの分類はあくまで経済や開発の度合いを基準にしたものです。ミニ国家は領土や人口の小ささだけに着目した分類なので、経済的には豊かな国も貧しい国も含まれうる分類です。ただ、傾向としてミニ国家は金融や資源など経済的に有利な条件を有している場合も多いです。さらに、人口が少ないため一人当たりのGDPが高く産出される傾向にもあり、世界でも有数の豊かな国が含まれることになります。

すでに述べたように、ミニ国家とされる国家はヨーロッパと太平洋やカリブの島々に多く存在しています。具体的にミニ国家とされる国を挙げておきましょう。ヨーロッパのミニ国家には、バチカン市国、モナコ、サンマリノ、リヒテンシュタイン、マルタ、アンドラがあります。太平洋のミニ国家には、ナウル、ツバル、マーシャル諸島、パラオ、ミクロネシア連邦、トンガ、キリバスがあります。カリブ海のミニ国家には、セントクリストファー・ネイビス、グレナダ、セントビンセント・グレナディーン、バルバドス、アンティグア・バーブーダ、セントルシア、ドミニカがあります。その他のミニ国家として挙げられるのは、シンガポール、ブルネイ、モルディブ、セーシェル、サントメプリンシペ、バーレーンなどがあります。

ヨーロッパのミニ国家であるバチカン市国、モナコ、サンマリノ、マルタ、リヒテンシュタイン、アンドラは経済的にヨーロッパの大国と同水準、またはそれ以上に豊かな国々であると言えます。例えば、リヒテンシュタインやサンマリノ、モナコは一人あたりGDPで見ると日本以上に豊かな国であると言えます。ただ、これらのミニ国家はそれぞれ強みとしている産業の違いがあるようです。まず、ローマ市に囲まれた立地のカトリックの総本山であるバチカン市国は、宗教と観光がその存在基盤を支えています。モナコ、サンマリノ、マルタ、アンドラは観光地として非常に有名であり、モナコではカジノも有名です。リヒテンシュタインはスイスやEUと密接な関係にあり、国際金融の拠点であることが存在基盤となっています。

上記のように、経済的には観光や金融などそれぞれ得意分野を持つヨーロッパのミニ国家ですが、軍事や警察など安全保障、外交や司法、行政などは人員不足になりがちです。そのため、これらの国家機能の一部を隣接する大国に委任していることが多くなっています。例えば、アンドラの国家元首はフランス大統領とスペインのウルヘル司教が共同で勤めています。有事の際はリヒテンシュタインがスイス、モナコがフランス、アンドラがフランスとスペインに防衛を委ねています。また、バチカンではイタリアの警察が治安の維持にあたっています。

太平洋・カリブ海のミニ国家は、ヨーロッパのミニ国家のように世界有数の豊かさを誇っている国はありません。太平洋のミニ国家であるナウルは、かつてリン鉱石の採掘で資源国として栄え、非常に豊かな国でした。ナウルでは税金はなく、医療や教育が無料となるなど国民の生活も豊かだったのですが、20世紀末にはこのリン鉱石が枯渇し、経済状況は転落しました。現在では主要な産業が崩壊し、失業率がかなり高い国となっています。カリブ海のミニ国家であるセントクリストファー・ネイビスやトリニダード・トバゴ、そして太平洋のパラオは、一人あたりGDPではバルト三国程度の水準(日本の3分の1程度)を維持しており、比較的豊かな国であると言えるでしょう。ナウルなどの例を見ると、島国のミニ国家は周囲の国との経済的なつながりを持つことが非常に困難であることから、モノカルチャーな経済に陥りやすく、唯一の資源が枯渇すると経済的に立ち行かなくなる構造になりやすいことがわかります。これは、ヨーロッパのミニ国家が周囲の大国と友好的かつ親密的な関係を保つことによって経済的な豊かさを獲得していることとは対照的だと言えるでしょう。また、モナコ、リヒテンシュタインが王侯領として、バチカンやサンマリノが宗教国として独立を保っているのに対し、太平洋・カリブ海のミニ国家の多くはイギリスなどの植民地であり、もともと国家としての基盤がぜい弱であることも明らかです。

さて、最近世界的な注目を浴びつつあるミニ国家が、東南アジアにあるシンガポールです。シンガポールは旧英国領であり、マレーシアの南部にある小さな島国です。シンガポールは近年、グローバル都市として知られるようになり、経済的な急成長を遂げました。現在シンガポールの一人あたりGDPはアメリカに次ぐ世界9位となっており、日本をはるかに超える水準となっています。シンガポールは経済的に反映しているだけでなく、シンガポール国立大学が国際的に評価されるなど、多方面で成功した国として認知されています。それもあって、日本では最近、シンガポールを理想の国家の1つとして考える風潮も出てきているように感じられます。ただ、シンガポールは実質的に独裁政治が行われており、報道規制により言論の自由に制限があるなど、民主国家としては大きな問題も抱えています。同性愛を法律で禁じるなど、近年の欧米の流れとは逆行するような前時代的な制度が存在する国でもあります。ミニ国家だからこそ小回りが利き、メリットとデメリットが如実になっているわけですが、シンガポールを理想の国家と考えることには慎重になっても良いでしょう。

本日は世界各地のミニ国家のうち、ヨーロッパ、太平洋・カリブ海、そして東南アジア地域の国々をテーマにしてみました。ミニ国家は小さい分それぞれの国に多様性があり、比較すると非常に面白いと感じます。ヨーロッパのミニ国家やシンガポールは経済的には日本以上に豊かであり、ある種のモデルにもなりそうですが、国が小さいからこそできること、できないことがあり、日本のような巨大な国と安直に比較することは難しいのかもしれません。

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武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。