教育について⑨イギリスの名門大学

このブログでは、高等教育機関について、いくつかのテーマを扱ってきました。特に日本の名門大学や、非英語圏のヨーロッパやアジアの名門大学を多く取り上げてきました。その理由としては、日本社会が現在英語偏重主義に陥り、アメリカ合衆国の大学に関する情報のみが巷に溢れていることに、個人的に危機感を覚えたためです。このような潮流は、真の意味でグローバル化を目指す社会の理念とは相いれないものですし、本当の意味でグローバル化や多文化主義を推進していくためには、世界各国の教育機関にも目を向ける必要があるでしょう。

上述の理由から、このブログでは特に英語圏以外の世界各国の情報を広く取り上げてきました。一方、英語圏も十把一絡にできないということは承知しています。英語圏はおおまかに分ければ、アメリカ合衆国を中心とする世界と、イギリスを中心とする世界(イギリス連邦=コモンウェルス)の2つに分類されます。教育の話に戻りますと、日本では傾向としてアメリカの大学を理想と考える部分があり、コモンウェルス各国の大学については二の次になってしまっているように感じられます。イギリスの大学といえば、オックスフォードとケンブリッジが有名ですが、それ以外の大学については、日本社会での知名度も低いという現状があります。しかし、イギリスの大学の歴史抜きには、欧米の大学だけでなく、日本の大学の設立背景について理解するのも難しいでしょう。そこで、今回はオックスフォードやケンブリッジを中心とする、イギリスの名門大学について書いてみたいと思います。

イギリスの名門大学として圧倒的な知名度、存在感を誇るのが、オックスフォード大学とケンブリッジ大学です。両校は合わせて「オックスブリッジ」と称され、世界最高峰の大学として知られています。1167年設立のオックスフォード大学は、イングランドの大学都市オックスフォードに所在します。オックスフォードは50人以上のノーベル賞受賞者、30人以上のイギリス首相を輩出してきました。オックスフォードに次ぐ歴史を持つ1209年設立のケンブリッジ大学は、同じくイングランドの大学都市ケンブリッジに所在します。ケンブリッジはオックスフォードを上回る96人のノーベル賞受賞者を輩出し、これは世界の大学でも最多の記録となっています。

オックスブリッジはイギリスの貴族を中心とする名家の人々が通う大学として有名で、イギリス伝統のカレッジ制というシステムを採用しています。カレッジとは、寄宿舎・食堂・講堂・図書館・礼拝堂・庭園などを有する組織で、オックスブリッジの大学内にはさまざまなカレッジが存在し、学生はそれぞれカレッジに所属することになっています。

オックスブリッジは中世に設立されたイングランドの大学ですが、スコットランドと隣国アイルランドにも中世に設立された大学が存在します。スコットランドの大学は、セント・アンドルーズ大学(1413年)、グラスゴー大学(1451年)、アバディーン大学(1495年)、エディンバラ大学(1583年)の4校で、それぞれスコットランド最高レベルの大学として知られています。また、アイルランドのダブリン大学トリニティ・カレッジも1592年に設立されています。中世に設立されたこれら7校をイギリスでは「古代の大学Ancient University」と呼び、後世に設立された他大学とは別格の大学と位置付けています。

一方、イギリスでは近世以降に大学の設立が盛んとなり、当時設立された大学からもオックスブリッジと比肩するレベルの大学が生まれてきました。オックスブリッジが「イギリス国教徒の貴族男子」のみを入学者としていたのに対し、女性や外国人などあらゆる人々を平等に学生として受け入れる趣旨で19世紀に設立されたのが、ロンドン大学です。ロンドン大学は現在、さまざまな1つの統一された大学ではなく、複数の大学が集合した連合体として運営されています。ロンドン大学に所属する大学は「カレッジ」と呼ばれていますが、オックスブリッジのカレッジとは違い、それぞれが独立した大学としての資格を有していることが特徴です。

ロンドン大学に所属するカレッジとして非常に有名なのが、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)、キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)です。また、かつてロンドン大学に加盟しており、その後離脱して独立したインペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)もまた、イギリスでは非常に優秀な大学として知られています。

ロンドンに所在するUCLとKCLは総合大学として、LSEは社会科学系大学として、ICLは自然科学系大学として知られています。ロンドンに所在するこれらの大学は、世界ランキングでは特にオックスブリッジよりも上位に位置付けられることがあるほどの名門大学です。ロンドンは世界有数のグローバル都市であり、世界中から優秀な学生を集めることが容易です。このメリットを生かし、ロンドンのUCL、KCL、LSE、ICLは世界的に有名な大学となったのです。例えばノーベル賞受賞者の数を見ても、UCLは29名、KCLは12名、LSEは19名、ICLは15名となっており、歴史の短さを考えればかなりの成果を上げていることになります。

イングランドのトップ大学として有名なオックスフォード、ケンブリッジ、そしてロンドンの名門大学UCL、KCL、LSE、ICLの6大学は、俗に「ゴールデン・トライアングル」とも呼ばれています。ロンドン、オックスフォード、ケンブリッジを線で結ぶと三角形になるため、このような俗称が付けられたのでしょう。ゴールデン・トライアングルに含まれる大学は、イギリスのみならず世界的にも名門大学として認知されています。

古代の大学とゴールデン・トライアングル以外にも、イギリスには名門大学が数多く存在しています。これらの名門大学の総称として知られているのが「ラッセルグループ」です。ラッセルグループは、1994年にロンドン大学近くのホテル・ラッセルでイギリスの名門大学24校が設立した団体です。ラッセルグループに所属する大学は世界的な名門校として知られており、「イギリス版アイビーリーグ」とも呼ばれています。ラッセルグループに所属する大学としては、オックスブリッジ、ロンドンの大学(UCL、KCL、LSE、ICL、クイーンメアリー大学)、イングランドの地方の大学(ウォーリック大学、サウサンプトン大学、シェフィールド大学、ニューカッスル大学、ノッティンガム大学、バーミンガム大学、ブリストル大学、マンチェスター大学、リヴァプール大学、リーズ大学、エクセター大学、ダラム大学、ヨーク大学)、スコットランドの大学(エディンバラ大学、グラスゴー大学)、ウェールズの大学(カーディフ大学)、北アイルランドの大学(クイーンズ大学ベルファスト)があります。ラッセルグループの加盟校は世界ランキングで常に上位を占めているだけでなく、国からの研究助成の大部分を得ているとされており、非常に影響力が高いのです。

本日は、イギリスの名門大学について書いてみました。同じ英語圏であるアメリカ合衆国の大学と比較すると、イギリスは(スコットランド、ウェールズ、アイルランドとの関係など)建国の歴史が複雑であり、貴族の存在する階級社会であることから、名門大学の構成も非常に複雑となっています。特に、貴族を中心として成り立ってきたオックスブリッジに対し、平等を重んじるロンドン大学が対抗してきた歴史は、イギリスの大学を考えるうえで非常に重要な事実だと言えるでしょう。

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武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。