同性愛者の権利を制限している国々①

以前このブログでは、「同性婚訴訟と世界における同性婚」という記事を掲載し、日本で最近提起された同性婚に関する訴訟の意義と世界における同性婚法制化の動きについて解説しました。同性婚の法制化は世界的に進んでいるかのように思われますが、実はそうではなく、むしろ同性愛者の権利を制限しようという国が多く存在しているのも事実です。本日は、①同性愛を制限している国、②同性愛を処罰している国について、解説していきたいと思います。

かつて、ヨーロッパにおいても同性愛は普通の恋愛、あるいは高貴な嗜みだと考えられていました。古代ギリシアなどがその典型的な例だと言えるでしょう。プラトンの著作、例えば『パイドロス』などには恋愛に関するエピソードが多く出てきますが、ここでいう恋愛は当然ながら男性同志の恋愛を指しているのです。しかし同性愛を罪だと考えるキリスト教がヨーロッパ中に広まった中世以降、ヨーロッパではしだいに同性愛に対する取り締まりが行われるようになりました。1533年、イギリスで生殖に関わらない性行為を禁止する「ソドミー法」が制定されるなど、現在に繋がる同性愛に対する厳しい姿勢が確立されていくことになります。

上記のような歴史を経て、戦後のヨーロッパでは同性愛者の権利を基本的人権の枠内で考えるようになり、やがて同性婚に関する法整備を進めるなど、事態は急速に変化することになりました。同性愛に対する弾圧に宗教的道徳が深く関わっていることは、ヨーロッパの歴史を見ると明らかです。

さて、非キリスト教圏であり、神道と仏教を主要な宗教としてきた日本はどうなのでしょうか。かつて日本では、武士における衆道を中心として、同性愛は広く受け入れられていたと言われています。衆道は、武士や僧侶が女人禁制の場にいる機会が多かったこと、また女性の人口が少なかったことから流行した「機会的同性愛」だとする見方もありますが、いずれにしても日本では古代、中世、近世を通じて同性愛は広く浸透していたようです。1886年の明治維新以降、日本を文化的にヨーロッパ列強に近づけるため、ヨーロッパ的な法律の制定が急がれました。これにより、1872年の「鶏姦律条例」では肛門性行が禁止され、1873年の「改定律例」ではこの罪を懲役刑としました。しかし、この条文は1880年の「旧刑法」では受け継がれず自然消滅してしまいました。そのため、日本では1872年~1880年のあいだだけ同性愛に関する刑罰規定が存在していたことになりますが、同性愛そのものが禁止されていたわけではありません。

前置きが長くなりましたが、ヨーロッパやアメリカと友好的な関係を持つ日本では、これらの国に倣った同性愛者の権利運動が盛んに行われてきており、同性婚に関する議論も社会では進みつつあるようです。一方、ヨーロッパやアメリカにおける同性愛者の権利保障の動きに反対し、むしろ同性愛者の権利を制限するなど、時代に逆行する政策を行っている国々も多く存在しています。

まずは、なんらかの方法によって同性愛者の権利を制限している国々を取り上げておきましょう。「同性愛者の権利を制限する」というのは抽象的で分かり辛いですが、世界には、同性愛に関する表現の自由や結社の自由を制限している国が存在します。代表的な国がロシア連邦です。ロシアでは同性愛やそれに関連する行為は禁止されていません。しかし、ロシアでは同性愛者に対する厳しい差別や暴力が横行しており、彼らの人権は危機的な状況にあるとされています。それを象徴するのが2018年に制定された「同性愛宣伝禁止法(伝統的家族価値の否定を宣伝する情報から子供を守ることを目的とした『健康と発達を害する情報からの子供の保護に関する連邦法』5条及びロシア連邦の個々の法律行為の改定に関する連邦法)」です。この法律の目的は「非伝統的な性的関係を未成年者に宣伝することを禁ずる」ことですが、同性愛者の表現の自由を制限することに繋がり、ひいては同性愛者の人権を侵害する可能性があります。

他の国に目を向けると、中国でも法整備はなされていないものの、ロシアに似た状況にあります。中国では同性愛に関する表現には検閲がかけられ公にできない、同性愛に関する映画が上映されないなど、表現の自由は厳しく制限されています。

傾向としては、ロシアを始めとする旧ソ連圏では同性愛者の権利を制限する動きが強く見られます。ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンなどでは、特定の法律は制定されていないものの、社会的には同性愛に対する厳しい差別が依然として残っており、それを禁止する法律や条例は存在しません。上記のように、同性愛者の権利を比較的ゆるやかに制限する国がある一方で、同性愛を完全な犯罪と見なし、刑罰を科す国々も現代には多く存在しています。

同性愛やそれに伴う行為を禁止し、刑罰を科す国のほとんどが、中東、アフリカ、そして東南アジアなどに偏在しています。具体例を見ておきましょう。同性愛にもっとも重い刑罰を科す国として有名なのが、サウジアラビアやイラン、イエメンといったイスラーム教国家です。サウジアラビアやイランでは、同性間の性交渉は最高で死刑に処せられます。他にも、アラブ周辺の多くの国々では、同様の行為によって国外追放、懲役、むち打ちなどの重い刑罰が科されることとなっており、同性愛者の人権はかなり厳しく制限されていると言えます。アフリカの国々ではアラブほど厳しくありませんが、多くの国々で同性愛が刑罰の対象となっていることは同様です。

日本との関連が深い東南アジアについても見ておきましょう。東南アジアの政策は国によりかなり多様性があります。同性間の性交渉に対し、もっとも重い刑罰を科すのがブルネイやミャンマーで、死刑や終身刑となる可能性があります。マレーシアやシンガポールにおいても、同性間の性交渉は刑罰の対象とされ、数年間の実刑が科されます。経済的に成功し、日本では「お手本の国」というイメージを持たれているシンガポールですが、このようなネガティブな側面はあまり着目されていません。同性愛に対しさまざまな態度を取ること(ときにはネガティブな態度を取ること)を表現の自由として保障する必要がある一方で、国家が積極的に同性愛者の権利を厳しく制限し、逮捕・懲役などで身体を拘束することは、近代国家として原則的にあってはならないことです。シンガポールは独裁的な政治体制など、さまざまな問題を抱えており、あまりみだりに礼賛したりせず、今後現代的な国家として発展することが望まれています。

以上のように、ロシアや中国においては実質的に同性愛者の権利が制限され、さらに中東、アフリカ、東南アジアの国々においては、彼らの人権は危機的な状況に陥っています。ヨーロッパやアメリカにおいて同性愛者の権利保障が進む中で、なぜこのような政策を行う国があるのでしょうか。1つ目に考えられる理由としては、やはりこれらの国に存在するキリスト教・イスラーム教などの宗教的道徳が挙げられるでしょう。ヨーロッパではこのような道徳は克服されてきましたが、いまだ多くの国々では支配的な位置を占めているのです。もう1つの理由として重要なのは、ヨーロッパやアメリカなど先進資本主義国に対する反発です。ロシア、中国、アラブの国々は、ヨーロッパやアメリカと対立してきた歴史があり、同性愛者の権利擁護を「敵国によるプロパガンダ」と見なす傾向にあります。そのため、プロパガンダに対抗するような措置をとる必要があると考えている、というのも大きな要因なのです。

 

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武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。