言語について⑭モンゴル諸語

これまでこのブログで扱ってきた言語はヨーロッパ諸語が中心でしたが、日本・中国・朝鮮といった東アジアの身近な言語についても書くようにしてきました。一般的に、東アジアのなかには日本、中国・台湾、南北朝鮮に加え、モンゴルも含まれるとされています。中国・台湾や朝鮮半島と比較して、モンゴルは日本人にとってそれほど馴染みのない国かもしれません。しかし、かつてモンゴルはチンギスハーンを中心とするモンゴル帝国として栄え、世界的に重要な地位を占めていました。現在でもその末裔はさまざまな地域に居住し、彼らの話す言語は「モンゴル諸語」と呼ばれています。本日は、日本人にとってあまり馴染みのないモンゴル諸語について書いていきたいと思います。

東アジアの国家であるモンゴル国は、モンゴル人を中心とする国家であり、公用語はモンゴル語です。モンゴル語は「モンゴル語族」という語族に分類される言語で、モンゴル語族にはモンゴル語の他にもさまざまな言語が存在しています。モンゴル語族に含まれる言語は「モンゴル諸語」と呼ばれ、当然ながら一定の共通性を持っています。上記の通り、モンゴル人は13世紀から17世紀に至るまでモンゴル帝国という巨大な帝国をユーラシア大陸に建設し、東は韓国、西はポーランドの一部にまでまたがる国家となりました。モンゴル帝国は地上の25%を支配していたとされます。このとき、現在のモンゴル国付近からモンゴル系の人々がユーラシア大陸に広がっていったため、モンゴル諸語を話す地域も拡大したようです。

モンゴル諸語に含まれる言語は、モンゴル語、ブリヤート語、オイラト語、カルムイク語、モゴール語、ダウール語、トンシャン語、バオアン語、康家語、東部ユグル語、土族語などが含まれます。このうち、モンゴル語はモンゴル国と中華人民共和国内モンゴル自治区の、ブリヤート語がロシア連邦ブリヤート共和国の、カルムイク語がロシア連邦カルムイク共和国の公用語となっています。モンゴル国、中華人民共和国内モンゴル自治区、ロシア連邦ブリヤート共和国は地理的に隣接しており、モンゴル諸語の多くはモンゴル周辺で話されていると言えます。しかし、カルムイク語が公用語となっているカルムイク共和国はロシア西部のカスピ海周辺に位置しており、モンゴルからはかなり離れています。また、モゴール語はアフガニスタン北部の山間部で話されている言語で、こちらもモンゴルから地理的にかなり離れています。理由としては、モンゴル帝国の拡大に伴ってユーラシア大陸中に広がったモンゴル諸語のうち、現地の言語に同化されずに残ったのがカルムイク語とモゴール語だったのだと言えるでしょう。

モンゴル諸語はモンゴル語族という独自の語族を形成していますが、モンゴル語族は文法や音韻といった言語学的な面でテュルク語族(トルク語、カザフ語、ウズベク語、ウイグル語など)、ツングース語族(エヴェンキ語、満州語など)と共通性を持っているとされています。そして、モンゴル語族、テュルク語族、ツングース語族の共通性に着目して、「アルタイ語族」という大きな語族の存在が主張されました。アルタイ語族については以前このブログでも扱ったので割愛しますが、現在では仮説にすぎないとされています。

モンゴル諸語の話者数は、中国語、日本語、朝鮮語など他の東アジア言語と比較するとかなり少なくなります。モンゴル諸語のうち、どこからどこまでを「モンゴル語」と見なすかは学術的に難しいところですが、モンゴル諸語の中核的な言語であるモンゴル語の母語話者数は、570万人程度と見積もられています。この数字はフィンランド語よりは多いですが、アルバニア語よりは少ないということになります。モンゴル国の人口自体がとても少なく約300万人に留まっていることからも、モンゴル諸語の話者数は全体的に少ないことがわかります。とはいえ、モンゴル諸語はモンゴル国のみならず内モンゴル、ブリヤート共和国、カルムイク共和国の公用語にもなっており、かなり広い地域で話されていることから、ある種の言語圏を形成しているとも言えるでしょう。

モンゴル諸語のうちモンゴル語に次ぐ地位を持つのがブリヤート語で、ブリヤート語の話者数は40万人とされています。ブリヤート語はロシアのブリヤート共和国でロシア語とともに公用語となっており、法的にもある程度の保護がなされています。ただし、ブリヤート共和国の人口のうち、ブリヤート人が占める割合は約30%となっており、必ずしも多数派を構成しているわけではありません。

ブリヤート語よりも総話者数が多いのがオイラト語です。オイラト語は中国新疆ウイグル自治区、青海省、甘粛省、モンゴル西部で話されています。さらに、広義にはカルムイク語もオイラト語に含まれることになります。このように考えた場合、オイラト語の話者数は約50万人とされています。中国国内で話されるモンゴル諸語であるダウール語や土族語も、それぞれ約20万人、約15万人の話者数を有しており、比較的多くの人々に話される言語だと言って良いでしょう。

このように、かなり多様な地域で話されているモンゴル諸語ですが、その公的地位は必ずしも盤石ではないと言えます。モンゴル語を唯一の公用語としているのはモンゴル国のみであり、中国内モンゴルでは中国語と並ぶ公用語となっているのみです。また、ロシア連邦内のブリヤート共和国でもブリヤート語はロシア語と並ぶ公用語とされ、カルムイク共和国のカルムイク語も似た状況にあります。これらの地域では、モンゴル諸語を話す人々の割合は過半数を割っており、少数派の言語とされています。今後、中国語化やロシア語化とどのように向き合っていくのかが課題となるでしょう。

文字についても触れておきましょう。モンゴル諸語は、実にさまざまな文字で記載される言語です。モンゴル語で伝統的に使用されてきた文字はモンゴル文字です。モンゴル文字は13世紀頃にウイグル文字から派生した文字で、縦書きのニョロニョロした概観を持っています。モンゴル文字は満州語に用いられる満州文字の原型にもなったとされています。モンゴル文字は伝統的な文字ですが、その使用は内モンゴル自治区で一般的であるものの、現在のモンゴル国では公的にはあまり使用されていません。モンゴル国の前身であるモンゴル人民共和国はソヴィエト連邦の強い影響化にあり、ロシア語の文字であるキリル文字によるモンゴル語表記が一般化しました。そのため、現在でもモンゴル国内のモンゴル語はキリル文字で表記されることが一般的です。また、ブリヤート語やカルムイク語も現在ロシア国内で話されている言語のため、表記には一般的にキリル文字が使われています。

本日は、同じ東アジアに属しながら日本ではあまり馴染みのない国、モンゴルの言語を扱いました。モンゴル語単体で見るとその言語圏はモンゴル国内と中国内モンゴル自治区に限られますが、ブリヤート語やカルムイク語などモンゴル諸語全体で見ると、モンゴル諸語圏とも言える広大な言語圏を形成していることがわかります。モンゴル語の話者数はそれほど多くありませんが、モンゴル国は現在順調な経済成長を続けていることから、経済事情の改善によっては、モンゴル語の影響力が東アジア内で増してくる可能性もあります。また、内モンゴルのモンゴル語やブリヤート共和国のブリヤート語など、多言語との併用地域でこれらの言語がどのような道を辿るのか、ということにも注目していきたいところです。

ABOUTこの記事をかいた人

武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。