言語について⑮テュルク語族

前回の記事では、意外にも広い地域で話されているモンゴル語族をテーマとして取り上げました。モンゴル語族はモンゴル、中国、ロシアを含むユーラシア大陸の広大な領域で話されている言語です。そして、モンゴル語族は同じくユーラシア大陸の言語であるテュルク語族、ツングース語族との関連性が指摘されているということも述べました。といっても「テュルク語族」、「ツングース語族」はモンゴル語族以上に日本人にとってはなじみの薄い言語群ではないでしょうか。実は、この2つのうちテュルク語族はモンゴル語族を凌いで、かなり広い地域で話されている重要なグループなのです。テュルク語族に関する理解なしにユーラシア大陸の情勢を語ることはできないでしょう。というわけで、本日はテュルク語族という概念について書いていきたいと思います。

テュルク語族の「テュルク」という言葉は聞きなれないものですが、英語で書くと「Turkic」であり、意味的には「トルコ」と共通しています。後述するように、トルコの公用語であるトルコ語もまた、テュルク語族に含まれる言語の1つなのです。テュルク語族の言語は、もともと現在のシベリアやモンゴル付近で話されていたと考えられています。しかし、その後中央アジアやアナトリアまで分布を広げていき、現在のようにユーラシア大陸の広い地域で話されるようになったのです。

テュルク語族は「語族」ではあるものの、語族に含まれるそれぞれの言語間には高い共通性があると言われています。そのため、テュルク語族の言語同士であれば、ある程度互いに意思疎通を図ることができるのです。インド・ヨーロッパ語族の言語同士、例えば英語とロシア語間の意思疎通が難しいことを考えると、これはテュルク語族特有のことと言えるかもしれません。

テュルク語族の言語は、伝統的には「膠着語(こうちゃく)」というタイプに分類されています。言語学上の難しい専門用語ですが、膠着語とは、単語に助詞や活用語尾を付加して意味を形成する文法を持つ言語のことです。テュルク語族との関連性が指摘されているモンゴル語族やツングース語族の言語も、同様に膠着語に属しています。さらに、日本語や朝鮮語といった言語も膠着語に分類されており、文法的にはトルコ語をはじめとするテュルク語族の言語と非常に近い部分があります。なお、シナ・チベット語族に含まれる中国語は、「孤立語」というタイプに分類されています。孤立語派語順によって意味が変わる言語のことです。同じアジアの言語でも、文法のタイプによって考えると、膠着語に含まれるテュルク語族・モンゴル語族・ツングース語族・日本語・朝鮮語と、孤立語に含まれる中国語やチベット語はまったく別系統だということになります。実際にどうかはわかりませんが、「トルコ語、モンゴル語などは日本人にとって学びやすい」と言われているのは、文法にある程度の共通性が見られるためなのです。

さて、実際テュルク語族に含まれる言語にはどのようなものがあるのでしょうか?まず、テュルク語族は、南西語群、北西語群、南東語群、北東語群などに分類されています。テュルク語族のうち、日本人にもっとも馴染みがあり、良く知られている代表的な言語は南西語群に含まれるトルコ語でしょう。南西語群にはトルコ語のほか、アゼルバイジャン語やトルクメニスタン語が含まれており、アナトリア半島、ヨーロッパ、コーカサス、中央アジアで話されています。

北西語群に含まれる言語としては、カザフ語、キルギス語、タタール語、バシキール語、カライム語などがあります。カザフ語やキルギス語は中央アジアのカザフスタンやキルギスの公用語であり、タタール語やバシキール語はロシア連邦内のタタール共和国やバシコルトスタン共和国の公用語です。また、カライム語はリトアニアの少数民族カライム人に話されていますこのように、北西語群のテュルク語は旧ソ連地域で話されていることになります。

南東語群の言語としては、ウズベク語やウイグル語が存在します。ウズベク語は旧ソ連のウズベキスタンの公用語であり、カザフ語やキルギス語とともに中央アジアで話される言語です。ウイグル語は、主として中華人民共和国新疆ウイグル自治区で話されている言語です。新疆ウイグル自治区は中国領となっていますが、もともとテュルク系の人々が多く住んでいた地域であり、「東トルキスタン」という別名もあります。

北東語群に含まれる言語には、サハ(ヤクート)語、トゥバ語、アルタイ語などが存在します。どれもロシア連邦内のサハ共和国、トゥバ共和国、アルタイ共和国などの自治共和国で公用語とされています。これらの地域はロシア連邦でも北東部に位置し、特に寒い地域として知られています。特にサハ共和国はマイナス50度を記録することもある非常に寒冷な都市として有名です。

上記のように、テュルク語族の言語は、シベリア、中央アジア、コーカサス、アナトリア、ヨーロッパなどユーラシア大陸のほとんどの地域にまたがって話されていると言えます。かつてユーラシア大陸の大部分を支配していたのはソヴィエト連邦だったため、テュルク語圏のほとんどは旧ソ連の国々に含まれていることになります。また、ロシア国内にもタタール人、バシキール人、サハ人、トゥバ人などの自治共和国が存在し、テュルク語族の言語は存在感を持っています。

話者数についても見ておきましょう。テュルク語族のうち、もっとも話者数が多い言語はトルコ語です。トルコ語の話者数は約7000万人程度とされており、朝鮮語と同程度の話者が存在していることになります。次に話者数が多いのはアゼルバイジャン語で、約2500万人とされます。アゼルバイジャン語はテュルク語族のなかでもトルコ語と近い関係にあるため、どちらかを話されば1億人近い人々と意思疎通が可能になるはずです。3番目に話者数が多いのはウズベク語。ウズベキスタンのほか、カザフスタンなどの中央アジア諸国、ロシア連邦、中国などで話されている言語で、話者数は約2300万人とされています。その次にカザフ語とウイグル語の話者数が多く、どちらの言語も約1000万人以上の話者数を有していることになります。ウイグル語は現在中国の自治区内で公用語とされていますが、中国語による漢化政策に晒されており、地位的には危ぶまれる部分も多くあります。

テュルク語族の話者数を総計すると、約1億8千万人になるようです。あくまで語族全体の話者数であり、単一言語との比較はできませんが、語族内の共通性が高くある程度互いに意思疎通が可能であることを考えると、テュルク語族は世界的にも大きな存在感を持っていると言えるでしょう。「テュルク語圏」とも言えるような、ある種の言語圏を形成していると考えることも、不可能とは言い切れません。

本日は、モンゴル語族やツングース語族と並び、あまり聞きなれない語族であるテュルク語族について書いてみました。テュルク語族はユーラシア大陸全土で1億人を超える人々によって広く話されている言語のグループであり、世界情勢について考えるとき、テュルク語族を念頭に置かないでいることはできません。本日は取りあげませんでしたが、テュルク語族の話者の多くはイスラーム教徒であり、今後イスラーム教を取り巻く世界情勢の変化のなかでも重要な役割を担っていくと考えられます。

ABOUTこの記事をかいた人

武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。