教育について⑪アイビー・リーグ

これまでこのブログでは、社会における教育や階級といった問題について、高等教育という側面から考察してきました。教育の内容面というよりは、高等教育機関の位置付けや国際的評価という外面的な観点から、日本の名門大学(旧帝大や早慶)、世界の名門大学(ヨーロッパ、ロシア、中国、韓国など)について書いてきました。さて、アジアとヨーロッパを取り上げたとなると、次に来るのはアメリカ大陸が順当だと考える人も多いでしょう。

アメリカ大陸の大学、特にアメリカ合衆国(以下、アメリカ)の大学については取りあげなければならないと思っていたのですが、個人的に漠然と躊躇している部分がありました。というのも、このブログでは日本で一般的に知られていない事項を主要テーマとしているわけですが、アメリカの大学は日本人にとってあまりに有名な存在であり、これ以上言及することもないのではないかというほど、世間には情報が溢れています。しかし、一応自分なりに整理するという意味でも、この機会にアメリカの大学について書いておきたいと思います。アメリカの大学のなかでも、エリート校としてもっとも有名なのが「アイビー・リーグ」と呼ばれる大学群です。というわけで、本日はアメリカの名門大学群であるアイビー・リーグについて書いていきたいと思います。

「アイビー・リーグ」とは、アメリカ合衆国北東部に位置する私立大学8校の総称です。「アイビー」とは「ツタ」の意味ですが、ツタの絡まるクラシカルな校舎のイメージから、この名称が付けられています。ニューイングランド地方を中心とするアメリカ合衆国北東部は、非常にリベラルな気風が強い地域として知られており、「アイビー・リーグ」出身者をエスタブリッシュメント層とする「イースト・コースト・リベラル」を象徴する地域です。「アイビー・リーグ」の加盟校はブラウン大学、コロンビア大学、コーネル大学、ダートマス大学、ハーバード大学、ペンシルベニア大学、プリンストン大学、イェール大学の8校となります。

アイビー・リーグの特徴は、学費が非常に高額で裕福な家庭出身のエリートが通う学校である、ということです。かつてアイビー・リーグに通う学生は白人のプロテスタントの男性であり、アメリカにおける「白人エリート」のイメージを象徴する大学群でもあります。アイビー・リーグの格好は財政的に安定していることもあり、貧困層やマイノリティ人種の学生を積極的に入学させるアファーマティブアクションも行われていますが、それでも従来のイメージはそれほど変わっていません。

イギリスのオックスフォードやケンブリッジ、フランスのパリ大学などと並び、世界でもっとも有名な大学の一つとされているのがマサチューセッツ州のケンブリッジに所在するハーバード大学です。ハーバード大学は1636年創立でアメリカ合衆国最古の大学であり、48人のノーベル賞受賞者を輩出し、ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグといった実業家も輩出していることで、さまざまな分野で有名な大学です。ハーバード大学の位置するケンブリッジ周辺には、マサチューセッツ工科大学など多くの大学が所在しています。ロー・スクール、メディカル・スクール、ビジネス・スクールといった専門職系の大学院も非常に有名で、日本からの留学生も多く存在します。

ハーバードと並び称される名門大学が、1701年創立のイェール大学です。イェールは49人以上のノーベル賞受賞者を輩出するなど、ハーバードと並ぶ実績を持ちます。ハーバードとのあいだにはスポーツの試合が行われるなど、名実ともにハーバードのライバルという地位を占めています。イェール大学はアイビー・リーグのなかでも特に伝統を重視する傾向にあると言われており、キャンパスもオックスブリッジを模した石造ゴシック様式のものが多いと言われています。学問が強いハーバードに対し、政治に強いというイメージがあり、元アメリカ大統領のクリントン夫妻やブッシュ親子はイェール大学の出身者として有名です。

ハーバード・イェールに次ぐ歴史を誇るのが、1746年創立のプリンストン大学です。ニュージャージー州に所在するプリンストン大学は、41名のノーベル賞受賞者を輩出するなど、名実ともにアイビー・リーグのなかではハーバード・イェールの次に位置する大学だと言えるでしょう。プリンストンは特に物理や数学などが有名な大学として知られています。ハーバード・イェールがロー・スクール、メディカル・スクール、ビジネス・スクールなどの専門職大学院を設置しているのに対し、プリンストンはこれらの機関を持たず、アメリカの伝統的なリベラルアーツ教育に力を入れていることで有名です。

アメリカ最大の都市ニューヨークに位置する大学として非常に有名なのがコロンビア大学です。アイビー・リーグの多くの大学が大都市から離れた閑静な場所に位置しているのに対し、コロンビア大学は大都市ニューヨークに所在していることが特徴的です。その土地柄もあってか、他のアイビー・リーグと比較して外国人留学生が多いという特徴もあります。コロンビア大学はさまざまな分野に人材を輩出していますが、最近のもっとも有名な卒業生として挙げられるのはバラク・オバマ元大統領でしょう。

フィラデルフィアに所在するペンシルバニア大学は、コロンビア大学と同じく大都市にあるアイビー・リーグの大学として有名です。ペンシルバニア大学は全米で初めて「University」を名乗った大学であり、1755年創立というアメリカでは長い歴史を誇っています。ペンシルバニア大学は全米で最初にビジネス・スクールを設置したということもあり、ビジネス・スクール、ロー・スクールを始めとする専門職大学院のレベルの高さを強みとしています。

1764年創立のブラウン大学は、アイビー・リーグのなかでも独特の校風を持つ小規模校として知られています。ハーバードやイェール、ペンシルバニアなどのように専門職大学院を設置せず、昔ながらのリベラルアーツに力を入れていることがブラウン大学の特徴です。また、小規模校ということもあり授業の質が高いことでも人気です。最近の卒業生として有名なのは、イギリス出身の女優であるエマ・ワトソンでしょう。エマ・ワトソンはイェール大学やケンブリッジ大学にも合格したとされていますが、ブラウン大学を選び進学したことで有名です。

1769年創立のダートマス大学は、アイビー・リーグのなかでもっとも小規模な大学であり、「単科大学」として知られています。ダートマス大学は小規模校でありながら裕福な卒業生によって支えられていることが有名で、全米でももっとも裕福な大学として知られています。卒業生の寄付によって財政基盤を安定させるのは、アイビー・リーグ全体に共通する特徴でもあります。

1865年創立のコーネル大学は、アイビー・リーグでもっとも新しい大学として知られています。コーネル大学はニューヨーク州の学園都市イサカに所在し、全米でもっとも美しいと言われるキャンパスを持つことでも有名です。

以上のように、「アイビー・リーグ」と一口に言ってもそれぞれの大学には多様性があることがわかりますね。大規模で学術が専門職養成まで手掛けるハーバード・イェール・ペンシルバニアのような大学、リベラルアーツにこだわるプリンストンやブラウンのような大学、小規模ながら経済的に豊かなダートマスなど、それぞれ特色や強みを持ちます。

ここではアイビー・リーグ加盟校の学術的な側面についてのみ述べましたが、「リーグ」という名称からも分かる通り、「アイビー・リーグ」は本来スポーツの対戦が盛んだった8校を指す言葉です。このことから、「アイビー・リーグ」という言葉が「勉強もスポーツもできる白人エリート男性」を象徴していることがわかります。現在ではその傾向も変わりつつあるとはいえ、アメリカで歴史的に権力を持ってきたのは彼らだということになります。

アイビー・リーグのほかにも、アメリカの名門校として世界的に知られている大学は数多くあります。そのような背景から、アイビー・リーグに他の名門校を足した名称として「アイビー・プラス」というものもあります。「プラス」の部分に含まれる大学は、スタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学、シカゴ大学、デューク大学、カリフォルニア工科大学で、どれも世界ランキングではアイビー・リーグよりも上位に位置することの多い大学です。また、アイビー・リーグが私立大学のみを含むのに対し、公立の名門大学を指す名称として「パブリック・アイビー」というものもあります。ここに含まれる大学としては、ウィリアム・アンド・メアリー大学、マイアミ大学、カリフォルニア大学(バークレー校、ロサンゼルス校など)、ミシガン大学、ノースカロライナ大学チャペルヒル校、テキサス大学オースティン校、バーモント大学、バージニア大学があります。これらの大学についても、今後取り上げていければと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。