イギリス連邦(コモンウェルス)について①

こちらのブログでは、これまでさまざまな国や地域をテーマとして取り上げました。一人の人間が世界中のことをテーマにしているので、特異不得意はどうしても出てきてしまうのですが、同一のブログ内に世界中の情報を集める、という意味では価値のある内容になりつつあるのではないかと思います。さて、これまでに扱った国々を振り返ってみると、その制度は多種多様であり、私たちの考える「国」の定義とは必ずしも一致するものばかりでないことがわかります。ロシア連邦における「自治共和国」やイギリスにおける「カントリー」など、あまり聞きなれない概念についても解説してきましたね。

また、主権国家の連合体である「ヨーロッパ連合(EU)」や「独立国家共同体(CIS)」などの存在も国際的には非常に重要です。主権国家の連合にもさまざまな形態があり、加盟国の結び付きの強さは組織ごとに異なっています。EUの場合、共通の法律などの社会制度が整備されており、国家に準ずるような巨大組織となりつつあります。一方、ソ連から独立した国々によって結成されたCISは、EUのような共通の法律を持たず、加盟国ごとに対ロシア政策が異なるなど温度差が見られ、組織としてはそれほど強固なものではありません。さて、EUとCISの他にも諸国家の連合体として注目に値する組織はいくつもあります。そのなかでもイギリスを盟主とする「イギリス連邦(コモンウェルス)」は重要です。イギリス連邦には世界中の旧イギリス植民地が参加しており、国際的な影響力を持ち続けています。

イギリス連邦は英語では「諸国連邦Commonwealth of Nations」と呼ばれています。かつては「British Commonwealth」と呼ばれており、日本語のイギリス連邦という名称はこれを訳したものです。「コモンウェルス」とは直訳すれば「共通善」ですが、現在ではイギリス連邦を指すことも多いです。名称から分かる通り、イギリス連邦はイギリスとその旧植民地であるイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、インド、南アフリカ、シンガポール、マレーシアなどの国々によって構成される組織です。イギリス連邦は中央政府を持たない緩やかな国家連合であり、形態としてはCISに類似している部分があります。

イギリス連邦成立の経緯を見ておきましょう。かつて大英帝国として世界中を支配したイギリスは、20世紀末には国力が衰退し、ドイツとアメリカに追い上げられるようになりました。そのようななかで、イギリスは植民地であるカナダやオーストラリアに自治権を与えていきましたが、各植民地の独立要求は激しさを増しつつありました。第一次世界大戦中には、カナダ、オーストラリア、アイルランドなどは実質的に独立国のような地位を占めるようになります。その後、1931年に「ウェストミンスター憲章」が発表され、イギリス連邦が発足しました。ウェストミンスター憲章では、カナダ、オーストラリア、アイルランド、ニュージーランド、ニューファンドランド、南アフリカをメンバーとして、イギリス連邦は各加盟国がそれぞれ主権を持つ独立国家であり、国王への忠誠によって団結する平等な連合である、ということが確認されました。第二次世界大戦後には、強い反英感情を持つアイルランドが離脱したり、アジアの植民地であるインドやパキスタンが加盟し始めたりと、加盟国の変動が多く起こりました。

ウェストミンスター憲章では、イギリス連邦は「イギリス国王への忠誠」により団結することが条件とされていたため、同君連合のような性格も帯びていました。しかし、1950年にインドが共和制国家になると、イギリス連邦の同君連合としての性格は失われます。そのため、同君連合としてのイギリス連邦の概念は主権国家である「英連邦王国Commonwealth realm」が引き継ぐことになり、イギリス連邦と英連邦王国は別々の概念として分離しました。英連邦王国には、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど、エリザベス2世を元首とする16の国家が加盟しています。

イギリスの国力衰退は第二次世界大戦以降も続き、アジアやアフリカのさまざまな植民地がイギリスから独立していきました。植民地をイギリス内にとどめることは困難になったため、イギリスは各植民地の独立を認め、イギリス連邦にとどめることで自国の影響力を保持する政策に転換しました。結果として、イギリス連邦にはイギリスから独立した旧植民地が次々と加盟していくことなります。

イギリス連邦加盟国の制度についても触れておきましょう。イギリス連邦の加盟国のなかには、それぞれ独自の大統領などの国家元首を置く国と、イギリス国王であるエリザベス2世を国家元首とする国があります。後者は前述した「英連邦王国」の加盟国ということになります。外交関係にも特徴があり、イギリス連邦加盟国間では、「高等弁務官」と呼ばれる独自の上級外交官が交換されます。高等弁務官は特命全権大使と同等の地位にあるとされる官職で、イギリス連邦加盟国の在外公館は「大使館」ではなく「高等弁務官事務所」と呼ばれます。高等弁務官はもともと植民地時代に存在した役職であり、かつての大英帝国の名残だと考えることもできるでしょう。イギリス連邦加盟国の市民は「連邦市民権」と呼ばれる権利を有し、イギリスの国政および地方選挙における選挙権および被選挙権が認められています。

イギリス連邦加盟国は、実に53ヶ国にも上ります。大英帝国がそれだけ広大な地域を統治していたということでもあり、非常に興味深いですね。現在の加盟国は下記の通りです。

ヨーロッパ:イギリス、マルタ、キプロス

アジア:インド、パキスタン、スリランカ、マレーシア、シンガポール、バングラデシュ、ブルネイ

北米:カナダ、トリニダード・トバゴ、ジャマイカ、バルバドス、バハマ、グレナダ、ドミニカ国、セントビンセント・グレナディーン、セントルシア、ベリーズ、アンティグア・バーブーダ、セントクリストファー・ネイビス

南米:ガイアナ

アフリカ:南アフリカ共和国、ガーナ、ナイジェリア、シエラレオネ、タンザニア、ウガンダ、ケニア、ザンビア、マラウイ、ガンビア、ボツワナ、レソト、スワジランド、モーリシャス、セーシェル、ナミビア、モザンビーク、カメルーン、ルワンダ

オセアニア:オーストラリア、ニュージーランド、トンガ、サモア、フィジー、パプアニューギニア、ソロモン諸島、ツバル、キリバス、バヌアツ、ナウル

こうして挙げてみると、大英帝国の植民地が北米・アジア・アフリカ・オセアニアに偏在していたことが良くわかります。国家連合は、多くの場合植民地時代と密接な関係にあります。ヨーロッパ連合は例外的ですが、実質的にロシアを中心とするソヴィエト連邦がベースとなっているCIS(独立国家共同体)も同様の性格を帯びています。前述の通り、イギリスは自国の国力低下に伴い植民地の独立要求を承認せざるを得なくなった局面で、イギリス連邦という制度を活用することで国際社会における自国の影響力を保持しようと試みました。結果として、その政策は概ね成功していると言えるでしょう。一方、イギリス連邦やCISのような機能を果たす組織を結成することができなかったフランス植民地帝国は、旧植民地諸国に対する影響力を次々と失っていきました。イギリスとフランスの植民地に対する政策は対照的な部分があるのです。

現在、イギリスはヨーロッパ連合からの離脱準備を行っています。反対派が多く順調ではないようですが、離脱は確実に行われるでしょう。というのも、個人的な考えでは、イギリスと大陸ヨーロッパ(フランス・ドイツ・オランダetc.)には、文化的に明らかな断絶が見られるためです。特にイギリスにおける「英米法」や「英米哲学」は、フランスやドイツで発展した「大陸哲学」や「大陸法」とは系統を異にするものであり、その違いは社会制度における差としても現れているのです。そこで注目されるのが、イギリス連邦の存在でしょう。イギリスは一度ヨーロッパとの連合に踏み切り、イギリスにとってイギリス連邦の存在感は相対的に弱くなりましたが、今後その地位は逆転していくものと考えられます。イギリス連邦がイギリスを中心とする勢力としてどのような動きを見せるのか、今後注目していく必要があるでしょう。

ABOUTこの記事をかいた人

武蔵野音大卒の声楽家。様々な芸能技法を武田梵声氏に師事しており、音域は8オクターブ(E-1〜E7)に及び、コロラトゥーラなども得意とする。日本とイギリスのハーフで、スペインやベネズエラの血も入っている。人類史上最高の歌手を目指して日々ストイックなトレーニングを重ねている。